「石油化学」や「総合化学」の求人には、プラントを24時間動かす運転の仕事、設備を点検して直す保全の仕事、運転の条件や設備の改善を考える技術の仕事、樹脂を売る営業まで幅があります。同じ会社の求人でも、ナフサを分解する設備の職場か、その先で樹脂をつくる職場かで、扱う物も、設備の再編の影響の受け方も違います。
この記事では、ナフサ(原油を精製してできる石油製品の1つ)を熱で分解してエチレンやプロピレンをつくり、それを樹脂、合成ゴム、基礎化学品に変えるまでを扱います。樹脂は、粒の形(ペレット)で出荷する段階までです。コンビナートの仕組み、生産量と統計の物差し、設備の場所と運営会社、利益の動き方、2026年のナフサの調達、設備の集約と脱炭素、工場の仕事と保安の法律を順に見ます。
化学全体の地図、統計の「化学工業」の範囲、化学にかかわる法律の全体像は「化学メーカーの業界地図|石油化学から電子材料・樹脂製品まで、誰が何をつくりどう稼ぐのか」で扱います。ペレットを成形してフィルムや部品にする会社と、ゴム製品は「プラスチック・ゴム製品の業界地図|成形加工と包装材料の会社は、誰から受注しどう稼ぐのか」、半導体の材料や、総合化学の会社が力を入れる機能性の材料は「半導体材料・電子材料の業界地図」で扱います。
石油化学を化学メーカー全体の川上・川中・川下の中で位置づける場合は、化学メーカーの業界地図で確かめられます。
製油所の運営と燃料の販売は「石油・天然ガスの業界地図|資源開発から精製・販売まで、誰がどこで稼ぐのか」、化学繊維は「繊維素材の業界地図|化学繊維・紡績・織物・染色と産業資材」、化学プラントの建設や撤去の工事は「プラントエンジニアリングの業界地図|工場や発電所を一括で造る会社は、どこで稼ぎ、何に賭けるのか」で扱います。
コンビナートは、ナフサを分けた成分を隣り合う工場でつなぐ
経済産業省の資料は、石油化学産業はナフサを原料にするため、石油精製施設(製油所)に隣接してコンビナートを形成していると説明しています。この記事でいうコンビナートは、製油所、ナフサを分解する設備、その先の製品をつくる工場が集まった工業地帯のことです。法律の「石油コンビナート等特別防災区域」は政令で指定される別の言葉で、仕事と保安の章で見ます。
流れの起点は、ナフサ分解炉(クラッカー)です。経産省の資料では、ナフサを約850℃の熱分解炉で分け、炭素の数ごとに、C2のエチレン、C3のプロピレン、C4のブタジエン、C5、C6〜8のBTX(ベンゼン・トルエン・キシレン)を取り出します。業界では、ナフサ分解炉を持つ設備を「エチレン設備」とも呼びます。
取り出した成分は、次の段の工場で「誘導品」と呼ばれる製品になります。エチレンからはポリエチレン(低密度のLDPE、高密度のHDPE)、エチレンと塩素からは塩化ビニルモノマー(VCM)を経て塩化ビニル樹脂(PVC)ができます。プロピレンからはポリプロピレン(PP)、ブタジエンからは合成ゴムができます。
ナフサを分解した成分が、樹脂・合成ゴム・基礎化学品に変わる
C5の成分と、トルエン・キシレンの量は省いた。誘導品は主な例で、すべてではない。万トンは原本のトンを四捨五入した。
1つのコンビナートの中には、エチレン設備を運営する会社と、エチレンを受け取って誘導品をつくる会社が並びます。四日市にエチレン設備を持つ東ソーは、2026年3月期のエチレン・プロピレンの出荷が減った理由に「コンビナート内の需要の減少」を挙げています。同じコンビナートの中に売り先がある例です。
エチレン設備を複数の会社で運営する形もあります。千葉では、出光興産と三井化学が2010年4月に千葉ケミカル製造有限責任事業組合(CCM)を作り、両社の装置の運営をまとめています。LLP(有限責任事業組合)は、出資した会社が共同で事業をする仕組みで、CCMの出資は両社の折半です。同じ千葉の京葉エチレンは、丸善石油化学が55%、住友化学が45%を出資する合弁会社です。水島(岡山県倉敷市)の設備は、三菱ケミカルと旭化成の合弁会社、三菱ケミカル旭化成エチレン(AMEC)が運営しています。
求人を出す会社が設備を運営する合弁会社か、誘導品をつくる出資会社かで、受け持つ設備が変わります。
何をどれだけつくっているか:生産量と統計の物差し
量は、石油化学工業協会(石化協)の年次統計で見ます。経済産業省の生産動態統計をもとにした暦年(1〜12月)の値です。2025年のエチレンの生産は514万トンで、2021年の635万トンより約19%少なくなりました(計算値)。2024年の499万トンからは少し増えました。
2025年のプロピレンは414万トン(2021年は524万トン)、合成ゴムの合計は95万トン(同148万トン)でした。樹脂などの品目ごとの量は、図に示しました。
これらは品目ごとの重さで、足し合わせません。VCMからPVCができるように、ある品目が次の品目の原料になり、足すと同じ物を重ねて数えるためです。
設備がどれだけ動いているかは、石化協の月次の実績概要にある「稼働プラントの実質稼働率試算」で見ます。定期修理(定修)で止めている設備を除いた試算(石油化学工業協会)で、全設備の稼働率ではありません。各月の発表時の値で、2024年は77.4〜83.2%、2025年は75.0〜81.9%の間でした。2026年の値は、原料の章で見ます。
エチレンの生産は2021年から約19%減り、2026年は稼働率の試算も下がった
棒の長さは2021年を100とした長さ(計算値)。万トンは原本のトンを四捨五入した。
2026年の月ごとの値(石化協によると2月末にホルムズ海峡が実質封鎖。3月は定修の集中も重なる)
各月の発表時の値(後で直された値は使っていない)。2024年・2025年は月の値の下限から上限までの幅を薄い色で示した。2025年9月の発表時の値は77.6%。定修中の設備を除いた試算で、全設備の稼働率ではない。
金額と人数は、物差しが別です。国の2025年経済構造実態調査では、細かい分類の「石油化学系基礎製品製造業」は9事業所・4,939人(2025年6月1日時点)で、製造品出荷額等は2兆901億円(2024年の1年間)でした。出荷額等は売上に近い金額で、利益ではありません。
ただし、エチレン設備を持つ事業所が、樹脂の製造など別の分類に入ることがあります。4,939人を「エチレン工場で働く人の数」と読むことはできません。
樹脂をつくる「プラスチック製造業」は284事業所・36,124人で、出荷額等は4兆793億円です。「合成ゴム製造業」は21事業所・6,657人・7,249億円です。エチレンを売る事業所と、買って樹脂にする事業所の両方で出荷額に数えられるため、分類どうしも足しません。「化学工業」全体の大きさは「化学メーカーの業界地図」で見られます。
ソーダの事業も、コンビナートとつながっています。か性ソーダと塩素をつくる「ソーダ工業」は22事業所・3,451人で、出荷額等は2,205億円です。東ソーは、か性ソーダ・VCM・PVCなどを「クロル・アルカリ」の事業として、エチレンなどの「石油化学」とは別に開示しています。2026年3月期(日本基準)のクロル・アルカリは、売上高3,460億円、営業利益19億円でした。会社は、南陽事業所(山口県周南市)の定期修繕の規模の違いでか性ソーダとVCMの出荷が減り、海外の市況も下がったと説明しています。
エチレン設備は8地域に12基:どこに、誰の設備があるか
経産省は、2026年10月の資料で、8地域のコンビナートで12基のナフサ分解炉が稼働中と書いています。地域は東から、鹿島・千葉・川崎・四日市・大阪・水島・周南・大分です。12基が動き始めた時期は、1968年から1994年です。
8地域・12基のエチレン設備と、発表されている集約の段階
能力は経産省の資料の値で、生産能力調査の令和6年(2024年)12月末・定修実施年の値と同じ。令和7年末の会社別の値では、ENEOSは82.2万トン。ENEOSの2基のどちらが浮島南地区の装置かは、この資料からは対応づけていない。会社が発表する能力は基準が違うため、この図には入れていない。
設備を持つ会社は、いくつかの型に分けられます。
- 石油会社:出光興産は千葉と周南に、ENEOSは川崎に設備を持ちます。ENEOSの川崎の設備は川崎製油所の中にあり、出光の千葉の設備は千葉事業所にあって、石油の精製と石油化学を同じ場所で営む例です。燃料の事業は「石油・天然ガスの業界地図」の範囲です。
- 化学会社:三菱ケミカル(鹿島)、三井化学(千葉)、東ソー(四日市)が自社の設備を持ちます。大阪の設備を運営する大阪石油化学は、三井化学の子会社です。
- 合弁会社:京葉エチレン(千葉、丸善石油化学と住友化学)とAMEC(水島、三菱ケミカルと旭化成)です。住友化学は国内では、京葉エチレンを通じてエチレンを得ています。
- 石油会社のグループの化学会社:丸善石油化学は、コスモエネルギーグループの会社で、千葉で自社の設備を運営しています。
- 化学会社から分かれた会社:大分の設備を運営するクラサスケミカルは、2024年8月1日に設立され、2025年1月1日にレゾナックの石油化学の事業を受け継ぎました。基礎石油化学製品、酢酸を主な原料とする有機化学製品、合成樹脂製品をつくります。レゾナック・ホールディングスが株主に株式を分配する「パーシャル・スピンオフ」の形で、東京証券取引所は2026年9月7日、同社の上場を承認し、上場日を9月29日とする概要を公表しました。
設備の能力は、経産省の生産能力調査で会社別に見られます。能力には「定修実施年」と「定修スキップ年」の2つの値があります。定期修理で止める年は、つくれる量が少なくなるためです。たとえば京葉エチレンは、令和7年(2025年)12月末で定修実施年が年69.0万トン、定修スキップ年が年76.8万トンです。10社の定修実施年の値を足すと608.9万トンになります(計算値)。
図の能力は、生産能力調査の令和6年末の値と同じです。令和7年末では、ENEOSの値が89.5万トンから82.2万トンに変わり、ほかの9社は同じでした。会社が発表する能力は数え方が違うことがあり、経産省の値とは混ぜません。
何で稼ぐか:原料と製品の価格差、稼働率、在庫の評価
エチレン設備とその誘導品の利益は、主に3つの要素で動きます。
1つ目は、製品の販売価格と原料のナフサの価格の差です。三菱ケミカルグループは「原料と製品の価格差」、出光興産は「製品マージン」という言葉で説明しています。この記事では、業界で共通の定義がそろわないため、価格差の金額は示さず、会社の言葉で見ます。
2つ目は、稼働率です。エチレン設備は大きく、止めていても人や保全の費用がかかります。動かす量が減ると、製品1トンあたりの固定費が重くなります。
3つ目は、在庫の評価です。ナフサの価格が下がると、前に高い値段で仕入れた原料や、それでつくった製品の在庫の価値が下がり、損失(在庫評価損)が出ます。逆に価格が上がると、利益が出る方向に働きます。
利益は価格差・稼働率・在庫の評価で動き、会社ごとに説明が違う
ナフサの価格の例:三井化学の資料の国産ナフサ価格は、2024年度75,600円/kL→2025年度65,300円/kL。価格差の金額は、業界で共通の定義がそろわないため示さない。
- 売上高
- 4,914億円
- セグメント損益(営業損益+持分法の損益)
- 68億円の損失
会社の説明:3月のナフサ急騰でプラスのタイムラグ影響があったが、製品マージンは低い水準
- 売上収益
- 6,788億円
- コア営業利益(会社の指標)
- 144億円
事業譲渡に関連する利益558億円を含む(会社の注記。ペトロ・ラービグ株式の一部売却益など)
- 売上高
- 1,697億円
- 営業利益
- 97億円
会社の説明:エチレン・プロピレンはコンビナート内の需要減で出荷減、ナフサ下落で販売価格も下落
- 売上収益
- 5,999億円
- コア営業利益(会社の指標)
- 184億円の損失
会社の説明:クラッカー中心の低い稼働、ナフサ下落による在庫評価損、市況の悪化、市原の大規模定修
- 売上収益(外部)
- 7,907億円
- コア営業利益(会社の指標)
- 42億円の損失
炭素(コークス)の事業を含む。会社の説明:ポリオレフィン等の原料と製品の価格差の拡大、EO・EG設備の減損
中国 48.6%アセアン 16.1%その他 35.3%
その他(インド・台湾・韓国など)は計算値。輸出はエチレン生産の38.2%に当たる。主なエチレン系製品をエチレンの量に換算した石化協の推計で、実際の製品の重さではない。
2026年3月期(2025年度)の開示を、会社ごとに見ます。会計基準、利益の名前、セグメントに入る事業が会社ごとに違うため、数字どうしは比べられません。
三井化学(IFRS=国際会計基準)は、石油化学が主体の「ベーシック&グリーン・マテリアルズ(B&GM)」の売上収益が5,999億円、コア営業利益が184億円の損失でした。損失は前の年度の114億円から広がりました。会社は、需要の減少でナフサクラッカーを中心に低い稼働が続いたこと、ナフサ価格の下落による在庫評価損などを挙げています。同社の資料では、国産ナフサ価格は2024年度の1キロリットルあたり75,600円から、2025年度は65,300円に下がりました。コア営業利益は同社独自の指標です。
三菱ケミカルグループ(IFRS)は、「ベーシックマテリアルズ&ポリマーズ(BM&P)」の外部への売上収益が7,907億円、コア営業利益が42億円の損失でした。損失は前の期の146億円から縮みました。会社は、ポリオレフィンなどで原料と製品の価格差が広がったことを挙げる一方、在庫評価損益の悪化や、酸化エチレン・エチレングリコール類の設備の減損も挙げています。BM&Pには炭素(コークス)の事業も入り、石油化学だけの損益ではありません。
住友化学(IFRS)は、合成樹脂・合成ゴムなどの「エッセンシャル&グリーンマテリアルズ(E&GM)」の売上収益が6,788億円、コア営業利益が144億円で、前の期より729億円改善しました。改善には、サウジアラビアの持分法適用会社ペトロ・ラービグの株式の一部を売った売却益が入っています。会社の注記では、このコア営業利益には事業譲渡に関連する利益558億円が含まれています。
東ソー(日本基準)の「石油化学」は、売上高が1,697億円、営業利益が97億円でした。会社は、エチレン・プロピレンの出荷が減ったことと、ナフサ価格の下落で販売価格が下がったことを説明しています。
出光興産(日本基準)の「基礎化学品」は、売上高が4,914億円、セグメント損益が68億円の損失でした。セグメント損益は、営業損益に持分法の損益を足したものです。会社は、2026年3月のナフサ価格の急騰によるプラスの「タイムラグ影響」があったものの、製品マージンが低い水準だったと説明しています。原料の値段の変化が製品の値段や在庫の評価に表れる時期がずれ、利益が一時的に動く例です。
どれも1社の説明で、業界の共通の法則ではありません。応募する会社の決算説明で、何が利益を動かしたかを読むと、工場の状況が見えてきます。
売り先の面では、輸出とアジアの市況が利益に響きます。石化協は、主なエチレン系製品の輸出入をエチレンの量に換算した推計を出しています。2024年の輸出は190.7万トンで、エチレン生産の38.2%に当たります。輸出先は中国が92.7万トン(48.6%)で、アセアンが16.1%でした。輸入は84.0万トンで、国内需要の21.4%です。
経産省は2023年の資料で、国内では需要と生産能力の差が続き、3割程度を輸出していて、主な輸出先の中国では100万トンを超える大規模な設備の新設・稼働が予定され、中国への輸出は徐々に難しくなる見込みだと書いています。石化協は2025年12月の実績概要で、アジア域内の相場は中国のデフレ圧力の高まりもあり、一段と冷え込んだとしています。設備の集約を発表した会社も、背景に中国を中心とした大型設備の新増設と、国内のエチレン需要の減少を挙げています。
樹脂の値段は、原料の値段の動きを受けて変わり、樹脂を成形する会社の加工品価格にも波及します。東ソーの説明のように、ナフサが下がると販売価格も下がります。この「原料価格→樹脂価格→加工品」のつながりを、加工する会社の側から見る話は「プラスチック・ゴム製品の業界地図」で扱います。
原料ナフサと2026年の中東情勢
原料のナフサの調達先について、石化協はペルシャ湾をはじめとする中東地域の紛争の拡大を受けた2026年3月17日のコメントで、国内で使う量のうち中東からの輸入が約4割、中東以外からの輸入が約2割、国内生産が約4割だと書いています。同じ時点で、石油化学製品は全体で2カ月程度、ポリエチレンやポリプロピレンなどの主な製品は国内需要の3カ月半から4カ月程度の在庫があり、ただちに供給が難しくなる状況ではないとしました。
石化協は5月27日の続報で、2月末のホルムズ海峡の実質封鎖以来、会員企業が、国内の石油精製からのナフサの調達を続け、中東以外からの調達を広げ、製品の在庫を使って、石油化学製品の供給を続けていると書いています。中東以外からの輸入ナフサは、従来の2割程度から5月に大幅に増える見込みだとしました。
設備の動きは、月次の実績概要に表れています。2026年3月のエチレンの生産は、前の年の同じ月より38.8%少なくなりました。石化協は、中東情勢の影響のほか、ナフサ分解炉などの定期修理が重なったこと(4社4プラント)を減産の理由に挙げ、主な製品は国内需要の3カ月以上の在庫を保っているとしています。石化協の内訳では、3月の減産のうち定修などの要因が30.1%分、稼働率の変動が8.7%分でした。
定修中の設備を除いた石化協の試算では、稼働プラントの実質稼働率は2026年2月の75.7%から3月に68.6%に下がり、6月は66.5%、9月は70.2%でした(前年の9月は77.5%)。9月のエチレンの生産は前の年の同じ月より13.7%少なく、石化協はその内訳を、稼働率の変動で9.8%、定修などで3.9%としています。
年度で見ると、石化協の月次の集計では、令和7年度(2025年4月〜2026年3月)のエチレンの生産は486万トンで、前の年度より2.2%減りました。前の章の暦年の値とは集計の元が違うため、並べて比べません。
経産省の2026年10月の資料には、2026年4〜6月時点の見通しとして、国内でのナフサの精製を続け、代替の調達で従来の85%の水準まで回復し、ナフサ由来の化学製品を含む石油製品は年度を越えて供給を続けられる見込みだと書かれています。
会社の業績の見通しにも、中東情勢が入っています。三井化学は、2026年度の予想で、中東情勢の影響による損失を150億円程度と想定し、「その他」のセグメントに織り込んでいます。B&GMのコア営業利益は、30億円の損失を予想しています。三菱ケミカルは、石油化学事業の分社化の検討を始めた理由の中で、中東情勢の影響も踏まえ、基礎化学品の安定した供給が一層重要になっていると書いています。
設備の集約と脱炭素:どこまで決まっているか
エチレン設備を減らして、残る設備に生産を集める計画が、地域ごとに発表されています。発表の段階は、検討の開始、合意、最終合意、基本契約などで違います。経産省の2026年10月の資料では、12基とも稼働中とされています。丸善石油化学の装置の停止の目途は2026年度(2027年3月まで)で、表のほかの計画は2027年7月以降です。
| 地域 | 当事者 | 内容 | 発表の段階と日付 | 時期 |
|---|---|---|---|---|
| 千葉 | 出光興産・三井化学 | 出光の装置を止め、三井化学の装置1基に集約。集約後もCCMで共同運営 | 最終合意(2025年12月19日) | 2027年7月 |
| 千葉 | 丸善石油化学・住友化学 | 丸善石油化学の装置を止め、京葉エチレンに集約。出資比率は変えない | 合意(2025年4月1日) | 2026年度目途 |
| 川崎 | ENEOS | 浮島南地区の装置の停止を前提に、生産・供給体制の最適化を検討 | 検討の開始(2025年2月26日) | 2027年度末目途(検討の前提) |
| 水島・大阪 | 旭化成・三井化学・三菱ケミカル | 3社で共同事業体を作り、AMEC水島の設備を止めて大阪石油化学の設備に集約 | 基本契約(2026年1月27日) | 2030年度目途 |
| 水島 | 旭化成 | SM・LDPE・HDPEの生産を終え、ANの年20万トンのラインを止める | 取締役会で方針を決議(2026年5月12日) | 2030年度目途 |
発表どおりに進めば、千葉で2基、水島で1基が止まる計画です。川崎は検討の段階です。会社の発表の能力は会社の基準の値で、経産省の表の値とは混ぜません。止めた設備は撤去する計画で、撤去や新しい設備の工事は「プラントエンジニアリングの業界地図」の範囲です。
脱炭素も、設備の計画を動かしています。経産省は、分解炉の熱源をアンモニアなどに替える「燃料転換」と、バイオエタノールや廃プラスチックを原料に使う「原料転換」を並行して進めることが重要だとしています。経産省の資料に載っている2025年11月の会議資料の推計では、ナフサの分解に使うエネルギーから約1,000万トン、重合などのエネルギーから約2,200万トン、熱回収・焼却で約1,600万トンのCO2が出るとされています。
西日本の集約は、国の「排出削減が困難な産業におけるエネルギー・製造プロセス転換支援事業」(HtA支援事業)に採択されました。投資の規模は212億円で、交付を申請する上限は104億円(補助率2分の1)、完工は2029年度末までです。構造の転換によるCO2の削減は年50.6万トンとしています。旭化成がバイオエタノールからエチレンとプロピレンをつくる技術の初期の生産設備を水島製造所に置き、2034年度に3社でグリーンな基礎化学品の商用生産を始めることを目指しています。
国の制度では、GX推進法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)が、CO2の排出量が年度の平均で10万トン以上の事業者に、毎年度、排出の目標などを国(経済産業大臣)に届け出ることを義務づけています(第33条、施行令第2条)。国は届出が適切なら排出枠を無償で割り当て(第34条)、事業者は翌年度に排出の実績を報告します(第35条)。
工場の仕事と、保安の法律が求めること
職種の名前と勤務の形は会社ごとに違うため、採用ページの例を会社名つきで見ます。
住友化学の高卒・高専本科生向けの採用サイトでは、主な募集職種は「製造オペレーター」です。仕事は、プラントの運転管理、設備の点検、現場での作業、設備のメンテナンス、品質管理、分析などです。化学プラントは24時間365日動くため、4つの班が交替で回る「4直3交替」をとり、例として1勤8〜16時、2勤16〜0時、3勤0〜8時を挙げています(時刻は工場で違います)。2024年度の年間休日は、交替勤務が108日、昼勤が124日でした。千葉工場は、ポリエチレンなどの合成樹脂や各種の工業薬品をつくっていると紹介しています。
出光興産の高専生などを対象とする採用では、総合職の「プロダクションエンジニア」と「メンテナンスエンジニア」を募集しています。前者はプロセスと設備の面の判断力と技術力で製油所や事業所の運転を進める技術者、後者は設備を維持・管理する技術者です。仕事には、点検、圧力・流量・温度などを見て運転の条件を変える運転調整、検討の業務があります。勤務地は北海道・千葉・愛知・徳山の製油所・事業所で、交替勤務の場合は7時30分〜20時と19時30分〜8時の2つの時間帯です。製油所と化学の事業所をまとめた募集です。
2つは1社ずつの例で、石油化学の工場の勤務がすべてこの形というわけではありません。交替の組の数、1回の勤務の長さ、年間休日の数え方は、求人票で確かめます。
工場の運転・保全の仕事と、法律が会社に求める保安の体制
どちらも1社の例で、石油化学の工場の勤務がすべてこの形ではない。
- 義務事業所ごとに製造の許可を受ける(第5条第1項)
- 義務保安統括者・保安技術管理者・保安係員を選ぶ(第27条の2)
- 義務保安検査を受ける(第35条)、定期自主検査をして記録を残す(第35条の2)
- 任意高度な保安の認定は「受けることができる」(第39条の13)。受けると保安検査を自ら行えるなどの特例
- 義務自衛防災組織・防災要員・防災資機材(第16条)、防災管理者の選任(第17条)
- 努力義務防災管理者に研修の機会を与えるよう努める(第17条第5項)
- 任意共同防災組織を設置「することができる」(第19条)
設備の集約は、従業員の配置にも影響します。旭化成は、水島の誘導品の事業の再構築にあたり、対象の事業に携わる251名の従業員を社内で再配置する予定だと開示しています。対象の事業の売上高は、各事業の単体の売上高の合計(連結内部取引を含む)で1,161億円(2026年3月期)です。
コンビナートの工場は、高圧のガスや大量の石油を扱うため、法律が会社に保安の体制を求めています。
高圧ガス保安法では、一定の規模以上の設備で高圧ガスを製造する者は、事業所ごとに都道府県知事の許可を受けなければなりません(第5条第1項)。第一種製造者などは、事業所ごとに保安統括者を選び、製造保安責任者の免状を持ち経験のある人から保安技術管理者・保安係員を選ばなければなりません(第27条の2)。定期に都道府県知事の保安検査を受けること(第35条。協会などの検査で代えられる場合があります)と、定期に自主検査をして記録を残すこと(第35条の2)も義務です。一方、高度な保安を確保できると認める経済産業大臣の認定は「受けることができる」もので(第39条の13)、受けるかどうかは事業者が決めます。認定を受けると、保安検査を自ら行えるなどの特例があります。
石油コンビナート等災害防止法は、石油や高圧ガスを一定量以上扱う事業所が集まる区域などを、政令で「石油コンビナート等特別防災区域」に指定します(第2条)。区域の中の特定事業者は、事業所ごとに自衛防災組織を置き、防災要員と化学消防自動車などの資機材をそろえなければなりません(第16条)。防災管理者の選任も義務です(第17条)。防災管理者に研修の機会を与えることは「努めなければならない」努力義務です(第17条第5項)。同じ区域の事業者が共同防災組織を作ることは「できる」とされ、任意です(第19条)。
求人を見比べるときの確認点
石油化学の求人は、同じ「製造」「技術」でも、担当する工程と、再編の進み方で中身が変わります。次の点を確かめると比べやすくなります。
- どのコンビナートか:8地域のどこで、そのコンビナートのエチレン設備が集約の対象になっているか
- どの工程の職場か:ナフサを分解するエチレン設備か、樹脂・合成ゴム・基礎化学品などの誘導品の工場か
- 再編の段階と時期:検討の開始、合意、最終合意、基本契約、方針の決議のどれで、いつの予定か
- 運営する会社:自社の設備か、合弁会社やLLPか。分社化の検討の対象の事業か
- 勤務の形:交替勤務か日勤か。交替の組の数と時間帯、年間休日の数え方
- 保安の役割と資格:保安係員などの選任や、免状の取得の支援があるか
- 原料と脱炭素:バイオマスや廃プラスチックの原料、燃料転換など、担当する設備に新しい計画があるか

