「化学メーカー」と書かれた求人には、コンビナートでエチレンや樹脂をつくる工場の仕事、半導体の工場に納める材料を開発する仕事、樹脂を成形してパイプやフィルムにする仕事、空気から酸素や窒素を取り出して工場に届ける仕事まで、幅があります。どれも「化学」ですが、原料も、売る相手も、利益を動かすものも違います。
この分類の特徴は2つあります。1つは、1つの会社が原料に近い工程から機能材料・加工品まで、いくつもの段階を持つことです。もう1つは、国の統計の「化学工業」の範囲が、求職者が思い浮かべる化学メーカーと一致しないことです。この記事では、まず流れ図で段階と担い手を見分け、次に大きさの物差し、守るべき法律、稼ぎ方、産業ガス、変化、仕事と求人票の確認点を順に見ます。
扱う範囲は、化学の全体像と、独立した地図のない産業ガスです。分野ごとの工程・会社・職種は、各分野の業界地図で詳しく説明します。コンビナートのしくみ、エチレン設備の再編、樹脂の品目は「石油化学の業界地図」、半導体の工程で使う材料や顧客との取引は「半導体材料・電子材料の業界地図」、成形加工・包装材料・タイヤは「プラスチック・ゴム製品の業界地図」、塗料と接着剤は「塗料・接着剤の業界地図」、農薬と肥料は「農薬・肥料の業界地図」で扱います。
川上のナフサ分解、コンビナート、エチレン設備を詳しく見る場合は、石油化学の業界地図で確かめられます。
隣の分類との境目もあります。統計では化学工業に入る医薬品は「医薬品の業界地図」、化粧品は「化粧品の業界地図」、洗剤は「日用品・トイレタリーの業界地図」で扱います。化学繊維は「繊維素材の業界地図」、ナフサをつくる石油精製は「石油・天然ガスの業界地図」、化学プラントの建設は「プラントエンジニアリングの業界地図」、化学品の商社は「商社・卸売の業界地図」です。この記事は、次にどの地図を読むかを決めるための全体図です。
化学は、ナフサと空気から始まる川上・川中・川下の流れで読む
化学の会社は、原料に近い順に、川上・川中・川下のどこかを担っています。川上は、ナフサや空気から基礎的な化学品や樹脂をつくる段階です。川中は、半導体や電子部品などの顧客の製品・工程に合わせた機能材料をつくる段階です。川下は、樹脂を成形した製品、塗料・接着剤、農薬・肥料など、使う形にした製品をつくる段階です。段階は上下の格付けではなく、会社の大きさも表しません。
原油・ナフサと空気から身の回りの製品まで、どの段階を誰がつくり、どの地図で読むか
川上の起点はナフサです。ナフサは原油を精製してできる石油製品の1つで、石油精製は統計では中分類17「石油製品・石炭製品製造業」に入り、化学工業の外です。ナフサを熱で分解してエチレン・プロピレンなどをつくる事業所は、日本標準産業分類の細分類1631「石油化学系基礎製品製造業」に入ります。同じ事業所で一貫してつくる樹脂や合成ゴムもここに含まれ、基礎製品を受け入れて樹脂だけをつくる事業所は1635「プラスチック製造業」です。三井化学は、エチレン・プロピレン・ポリエチレン・ポリプロピレン・フェノール類などを「ベーシック&グリーン・マテリアルズ」の区分で扱っています(三井化学 2026年3月期 決算短信)。東ソーは、エチレンやポリエチレンの「石油化学」と、か性ソーダ・塩化ビニル樹脂などの「クロル・アルカリ」の区分を持ちます(東ソー 2026年3月期 決算短信)。コンビナートでの会社どうしのつながりは「石油化学の業界地図」で扱います。
川中は、機能材料・電子材料です。信越化学工業の「電子材料」の区分には、半導体シリコン・フォトレジスト・マスクブランクスなどが入ります(信越化学工業 2026年3月期 決算短信)。レゾナック・ホールディングスは「半導体・電子材料」の区分を持ちます。顧客の製品や工程に合わせてつくる材料で、どの材料を誰がつくるかは「半導体材料・電子材料の業界地図」で扱います。
川下には、樹脂を成形する会社、塗料・接着剤の会社、農薬・肥料の会社があります。積水化学工業は、塩化ビニル管・ポリエチレン管の「環境・ライフライン」と、合わせガラス用の中間膜・発泡ポリオレフィン・テープなどの「高機能プラスチックス」の区分を持ち、樹脂を加工する側の例です(積水化学工業 2026年3月期 決算短信)。農薬は、住友化学の「アグロ&ライフソリューション」の主要製品にあり、三井化学の「ライフ&ヘルスケア・ソリューション」の主要製品にも農業化学品があります。
空気から酸素・窒素・アルゴンをつくる産業ガスも、統計では化学工業の細分類1623「圧縮ガス・液化ガス製造業」に入ります。これは5つ目の章で扱います。
総合化学と呼ばれる会社は、1つの段階に収まりません。三菱ケミカルグループ、住友化学、三井化学は、川上の石油化学と川中の機能材料の両方を持ちます。旭化成は、化学・電子材料などの「マテリアル」に加えて、「住宅」「ヘルスケア」の区分も持っています(旭化成 2026年3月期 決算短信)。会社の名前ではなく、配属される事業が流れ図のどこにあるかで、読む地図を決めます。
「化学工業」は医薬品・化粧品を含み、化学繊維・石油精製を含まない
国の統計で化学の大きさを見るときは、まず範囲を確かめます。日本標準産業分類の中分類16「化学工業」には、ソーダや産業ガスなどの無機化学品、石油化学品や樹脂などの有機化学品のほか、塗料・洗剤、農薬・接着剤、肥料、さらに医薬品(小分類165)と化粧品(同166)が入ります。一方、化学繊維は中分類11「繊維工業」、石油精製は中分類17に入り、化学工業の外です。樹脂を成形するプラスチック製品は中分類18、タイヤなどのゴム製品は中分類19で、これも別の中分類です。
「化学」はどこまでを含み、どれくらいの人が働き、どれくらい出荷しているか
| 範囲(中分類) | 事業所・従業者 従業者は2025年6月1日 | 製造品出荷額等 2024年 | 付加価値額 2024年 |
|---|---|---|---|
| 16 化学工業医薬品・化粧品・塗料・農薬・産業ガスを含む | 40万1,026人5,574事業所 | 約34.4兆円うち医薬品 約9.6兆円(27.8%)・化粧品など 約2.2兆円(6.4%) | 約12.7兆円 |
| 18 プラスチック製品樹脂を成形・加工する | 44万3,646人1万3,340事業所 | 約14.3兆円 | 約5.2兆円 |
| 19 ゴム製品タイヤ・ホース・ベルトなど | 11万1,673人2,304事業所 | 約3.9兆円 | 約1.5兆円 |
| 16+18+19(広義の化学工業)計算値。製造業計に占める割合 | 95万6,345人製造業の12.6% | 約52.7兆円製造業の13.8%。工程ごとに重ねて数えた額で、市場規模ではない | 約19.3兆円製造業の16.5% |
- 1631 石油化学系基礎製品(9事業所・一貫の誘導品を含む)約2兆901億円
- 1635 プラスチック(樹脂)(284事業所)約4兆793億円
- 1623 圧縮ガス・液化ガス(302事業所)約7,862億円
- 1644 塗料(452事業所)約1兆3,612億円
- 1694 ゼラチン・接着剤(150事業所)約5,377億円
- 1692 農薬(86事業所)約3,568億円
- 1612 複合肥料(146事業所)約2,798億円
注:個人経営を含まない。2024年の実績から調べる事業所の範囲が新しくなったため、前の年とは比べない。化学繊維(中分類11)と石油精製(中分類17)は含まない。割合は百万円・人の原数値からの計算値で、兆円・億円は原数値を1回だけ丸めた。
経済産業省の経済構造実態調査によると、2024年の化学工業(中分類16)の製造品出荷額等は約34.4兆円、付加価値額は約12.7兆円です。事業所は5,574、従業者は2025年6月1日時点で40万1,026人です(経済産業省「2025年経済構造実態調査 製造業事業所調査」第1表)。このうち医薬品製造業が約9.6兆円、化粧品などの製造業が約2.2兆円で、合わせて化学工業の出荷額等の34.2%、医薬品だけで27.8%を占めます(計算値)。「化学工業○兆円」という数字には、薬や化粧品が3分の1ほど入っていることになります。
樹脂を加工する側も見ます。プラスチック製品製造業(中分類18)は事業所1万3,340・従業者44万3,646人・出荷額等約14.3兆円、ゴム製品製造業(中分類19)は事業所2,304・従業者11万1,673人・出荷額等約3.9兆円です。日本化学工業協会は、化学工業にプラスチック製品とゴム製品を足した範囲を「広義の化学工業」と呼んでいます(日本化学工業協会「グラフでみる日本の化学工業2025」)。この定義で3つの中分類を足すと、従業者は95万6,345人で製造業の12.6%、出荷額等は約52.7兆円で13.8%、付加価値額は約19.3兆円で16.5%です(2024年の調査の値からの計算値)。
出荷額等は事業所が出荷した額で、事業所の間の取引を重ねて数えます。ナフサからつくったエチレンを別の事業所が樹脂にし、その樹脂を成形工場がフィルムにすると、同じ原料が工程ごとに数えられます。そのため、3つを足した約52.7兆円は「化学の市場規模」でも「化学の付加価値」でもありません。また、この調査は2024年の実績から調べる事業所の範囲が新しくなったため、この記事では前の年との増減を書いていません。
細かい分類を見ると、段階ごとの姿が分かります。石油化学系基礎製品製造業(1631)は9事業所で、出荷額等は約2.1兆円です。基礎製品を受け入れて樹脂をつくるプラスチック製造業(1635)は284事業所で約4.1兆円、圧縮ガス・液化ガス製造業(1623)は302事業所で約7,862億円です。川下の側では、塗料製造業(1644)が452事業所で約1兆3,612億円、ゼラチン・接着剤製造業(1694)が150事業所で約5,377億円、農薬製造業(1692)が86事業所で約3,568億円、複合肥料製造業(1612)が146事業所で約2,798億円です。エチレンをつくる段階は少ない事業所に集まり、樹脂や塗料の段階は多くの事業所に分かれています。これは事業所の数で、会社の数ではありません。
研究にかける費用の大きさも、化学の特徴です。日本化学工業協会(同じ「グラフでみる日本の化学工業2025」)によると、2023年度の研究費は広義の化学工業で約3兆円、製造業全体の21.3%です(総務省の科学技術研究調査をもとにした協会の集計)。研究費の年度は、上の出荷額等の年とは違います。
化学の会社にかかる法律は、物質・ガス・危険物・農薬で分かれる
化学の会社には、扱う物質と設備に応じて、いくつもの法律がかかります。下の表は、主な法律が誰に何を求めるかを並べたものです。「義務」と「努力義務」、「許可」「登録」「届出」は、条文の言葉どおりに分けています。
化学の会社には、どの段階でどの法律の義務がかかるのか
| 法律 | 対象 | 誰に何を求めるか | 仕事との関係 |
|---|---|---|---|
| 化審法化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律 | 新規化学物質、一般化学物質、第一種特定化学物質 | 義務・届出新規化学物質を製造・輸入しようとする者は、あらかじめ3大臣に届け出る(試験研究用・少量などの例外あり)。国は3か月以内に判定 義務・届出一般化学物質を製造・輸入した者は、毎年度、前年度の数量などを届け出る(政令の数量未満などを除く) 許可第一種特定化学物質の製造は経済産業大臣の許可 第3条・第4条・第8条・第17条 | 研究開発、事業化の手続き |
| 化管法PRTR法 | 届出:政令の業種(製造業など)で、対象物質の年間取扱量が1トン以上(特定第一種0.5トン以上)の事業所を持つ事業者など 情報の提供:対象物質を1%以上(特定第一種0.1%以上)含む製品などを他の事業者に渡す事業者 | 義務・届出排出量・移動量を把握し、毎年度、事業所ごとに届け出る 義務対象物質を含む製品を他の事業者に渡すとき、性状と取扱いの情報(SDS)を文書などで提供する 努力義務内容を変えたときの再提供、化学物質の管理の改善 第4条・第5条・第14条。対象物質の一覧は2023年4月施行の政令改正で見直し(2024年度以降の届出から適用) | 品質保証、環境・安全の管理 |
| 毒物及び劇物取締法 | 別表の毒物・劇物(医薬品・医薬部外品を除く) | 登録販売・授与の目的で製造・輸入・販売するには、製造所・営業所などごとに登録(製造業・輸入業は5年、販売業は6年ごとに更新) 義務容器・被包に「医薬用外」と「毒物」「劇物」を表示 第3条・第4条・第12条 | 製造、出荷、営業 |
| 高圧ガス保安法 | 高圧ガス(常用の温度で1MPa以上の圧縮ガス、0.2MPa以上の液化ガスなど)の製造・貯蔵・消費 | 許可1日に100立方メートル(ガスの種類により政令で大きい値)以上を処理できる設備での製造は、事業所ごとに都道府県知事の許可 届出それより小さい製造の事業は、開始の20日前までに届出 義務許可を受けた製造者などは高圧ガス製造保安統括者を選任。製造保安責任者免状(化学・機械・冷凍機械)は試験の合格者に交付 第2条・第5条・第27条の2・第29条 | プラントの運転・保安、産業ガスの製造と配送 |
| 消防法 | 指定数量以上の危険物(別表第一の物品) | 許可製造所・貯蔵所・取扱所の設置・変更は市町村長等の許可。指定数量以上はこれらの施設以外で貯蔵・取り扱えない 義務政令で定める製造所等は危険物保安監督者(甲種・乙種危険物取扱者で実務6か月以上)を置く。資格のない人は甲種・乙種の立会いのもとで取り扱う 第10条・第11条・第13条 | 製造、設備、保安 |
| 石油コンビナート等災害防止法 | 石油・高圧ガスを政令の基準以上扱う区域(政令で特別防災区域に指定) | 消防法・高圧ガス保安法などと合わせて、区域としての災害の発生・拡大の防止を進める 第1条・第2条 | コンビナートの保安・防災 |
| 農薬取締法 | 病害虫の防除や成長の調整に使う薬剤(肥料を除く) | 登録製造者・輸入者は農林水産大臣の登録を受けなければ製造・加工・輸入できない。申請には安全性などの試験成績を出す 第2条・第3条 | 研究開発、登録の申請 |
新しい物質:化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)では、新規化学物質を製造・輸入しようとする者は、あらかじめ厚生労働大臣・経済産業大臣・環境大臣に届け出なければなりません(第3条)。試験研究用や少量の場合などの例外があります。国は届出から3か月以内に判定して通知します(第4条)。すでに流通している一般化学物質も、製造・輸入した者は毎年度、前年度の数量などを届け出ます(第8条、政令の数量未満などは除く)。第一種特定化学物質の製造には、経済産業大臣の許可が要ります(第17条)。研究開発で新しい物質をつくる仕事では、この届出が事業化の前の手続きになります。
排出量と情報の受け渡し:化管法(PRTR法)では、政令で定める業種に属し、取扱量などの要件に当たる事業者は、対象物質の排出量・移動量を把握し、毎年度、事業所ごとに届け出なければなりません(第5条)。施行令の要件は、製造業などの業種で、対象物質の年間の取扱量が1トン以上(特定第一種は0.5トン以上)の事業所を持つことなどです。対象物質を含む製品を他の事業者に渡すときは、性状と取扱いの情報(SDS)を文書などで提供しなければなりません(第14条第1項)。対象は、対象物質を1%以上(特定第一種は0.1%以上)含む製品などです。一方、内容を変えたときの再提供(第14条第2項)と、化学物質の管理の改善(第4条)は「努めなければならない」努力義務です。対象物質の一覧は政令の改正で見直され、2023年4月に施行されました。改正後の一覧は、2024年度以降の届出(2023年度に把握した分)から適用されています。
毒物・劇物:毒物及び劇物取締法では、毒物・劇物を売るために製造・輸入・販売するには、登録を受けなければなりません(第3条)。登録は製造所や営業所ごとで、製造業・輸入業は5年ごと、販売業は6年ごとに更新します(第4条)。容器には「医薬用外」の文字と、「毒物」「劇物」の表示が要ります(第12条)。
高圧ガスと危険物:高圧ガス保安法では、1日に処理できるガスの容積が100立方メートル(ガスの種類によっては政令でこれより大きい値)以上の設備で高圧ガスを製造する者は、事業所ごとに都道府県知事の許可を受け、それより小さい製造の事業は、事業を始める20日前までに届け出ます(第5条)。許可を受けた製造者など(省令で除かれる者を除く)は、事業所ごとに高圧ガス製造保安統括者を選ばなければなりません(第27条の2)。消防法では、指定数量以上の危険物は、許可を受けた製造所・貯蔵所・取扱所でしか貯蔵・取り扱いができません(第10条・第11条)。製造所などで危険物取扱者の資格がない人が危険物を扱うときは、甲種または乙種の危険物取扱者の立会いが要り、政令で定める製造所などには危険物保安監督者を置きます(第13条)。
コンビナートと農薬:石油コンビナート等災害防止法は、石油や高圧ガスを一定量以上扱う区域を政令で特別防災区域に指定し、消防法や高圧ガス保安法と合わせて、区域としての災害対策を進める法律です(第1条・第2条)。農薬取締法では、農薬を製造・輸入する者は、農林水産大臣の登録を受けなければなりません(第3条)。申請には安全性などの試験成績を出します。登録の詳しい話は「農薬・肥料の業界地図」で扱います。
どの法律も、主語は「化学メーカー」ではなく、新規化学物質を製造・輸入しようとする者、政令の要件に当たる事業者、指定数量以上の危険物を扱う施設などです。同じ会社でも、事業所や製品によってかかる法律が違います。
何で稼ぐか:同じ会社の中に、市況で動く区分と機能品の区分がある
化学の会社の利益は、区分によって動き方が違います。エチレンや樹脂、塩化ビニル樹脂、か性ソーダのような製品は、原料のナフサの価格や、アジアの製品の市況で販売価格が動きます。半導体材料などの機能品は、顧客の製品の需要で売上が動きます。下の図は、5社について、市況で動く区分と機能品の区分を会社ごとに抜き出し、区分の利益率を計算したものです。
同じ会社の中でも、市況で動く区分と機能品の区分で利益の出方はどう違うか(会社の例)
読み方:売上はセグメント間の取引を含む「計」、利益はセグメントの利益で、百万円の原数値を億円に四捨五入した。利益率は百万円の原数値からの計算値。ほかの区分は省いた。三菱ケミカルグループの産業ガスは、株式の50.6%を持つ日本酸素ホールディングスの事業で、売上は同社の連結と同じ(サーモスを含む。次の図の構成はサーモスを除く範囲)。利益は三菱ケミカルグループの定義による。
図は会社ごとに別々に読みます。利益の名前は、IFRSの三井化学・三菱ケミカルグループ・レゾナックが会社の定義する「コア営業利益」(営業利益から、事業撤退などの一時的な損益を除いたもの。何を除くかは会社ごとに違う)、日本基準の信越化学工業・東ソーが営業利益で、そろっていません。レゾナックだけ2025年12月期で、ほかは2026年3月期(2025年4月〜2026年3月)です。
信越化学工業は、市況品でも利益が出ている区分の例です。2026年3月期の生活環境基盤材料(塩化ビニル樹脂・か性ソーダなど)の営業利益は、前期の2,915億円から1,649億円に減りました。会社は、塩化ビニルの市況が北米で軟化し、アジアなどでは価格の低迷が続いたと説明しています。利益率は16.7%で、前期は27.9%でした(計算値)。同じ期の電子材料は、AI関連の活況でシリコンウエハーやフォトレジストなどの売上を伸ばし、営業利益は3,248億円から3,445億円になりました。
東ソーは、石油化学とクロル・アルカリの利益率が低く、機能商品が13.6%でした(計算値)。会社は、オレフィンは中国での新増設とデフレ輸出による海外市況の悪化で稼働率が下がり、クロル・アルカリは中国の需要低迷がアジア全域に及んだと説明しています。
三井化学のベーシック&グリーン・マテリアルズは、コア営業損失が184億円でした。会社は、ナフサなどの原料価格の下落による在庫評価損益の悪化と市況の悪化を理由に挙げています。原料価格が下がると、高いときに仕入れた原料の在庫の評価が下がり、損益が悪化します。ICTソリューションは、半導体市場の需要回復で半導体・光学材料などの販売が堅調でした。
三菱ケミカルグループは、ベーシックマテリアルズ&ポリマーズが小さな損失で、会社は酸化エチレン・エチレングリコール類の設備の減損があった一方、原料と製品の価格差が広がって損失が縮んだと説明しています。この会社のコア営業利益の多くは産業ガスの区分から生まれています。この区分は、三菱ケミカルグループが株式の50.6%を持つ日本酸素ホールディングスとその子会社の事業で、売上は日本酸素ホールディングスの連結と同じです(家庭用品のサーモスも含みます)。利益は三菱ケミカルグループの定義で測った値で、日本酸素ホールディングスが自社で開示する値とは少し違います。
レゾナック・ホールディングスは、2025年1月に石油化学事業を完全子会社のクラサスケミカルに移し、区分を分けました。2025年12月期の利益率は、半導体・電子材料が21.2%、クラサスケミカルが1.5%です(計算値)。
ここから言えるのは、1年の決算で見ると、市況の区分は原料価格・定期修理・市況で利益が大きく動くということです。「汎用品は儲からない」「機能品は必ず高収益」とは言えません。信越化学工業の塩化ビニル樹脂のように、市況品でも利益が出ている区分があります。
住友化学は図に入れていません。石油化学などの「エッセンシャル&グリーンマテリアルズ」の2026年3月期のコア営業利益144億円は、事業譲渡に関連する利益558億円を含むため、この区分の稼ぐ力を表す値として使えないからです(住友化学 2026年3月期 決算短信)。
総合化学は、事業の組み替えも進めています。三菱ケミカルグループは、医薬の事業(田辺三菱製薬、現 田辺ファーマ)を非継続事業に分類し、区分を4つにしました(三菱ケミカルグループ 2026年3月期 決算短信)。レゾナックは前に見たとおり石油化学を子会社に分けました。住友化学の国内のポリプロピレン・LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)の事業は、出光興産と三井化学の合弁会社プライムポリマーに統合する最終契約が結ばれ、2026年7月の統合に向けて準備していると三井化学が開示しています(2026年5月の決算短信の時点)。住友化学の医薬(住友ファーマ)を含め、医薬品の会社の話は「医薬品の業界地図」で扱います。
産業ガス:空気からつくり、配管・ローリー・容器で届ける
産業ガスの会社は、空気から酸素・窒素・アルゴンを取り出し、工場や病院などに届けます。独立した地図がないため、この記事で扱います。
産業ガスはどうつくられ、どの形で、どんな業種に届くのか
- 空気窒素78.08%・酸素20.95%・アルゴン0.93%
- 圧縮・冷却・不純物の除去
- 液化して精留(深冷分離)化学反応や燃焼はない物理的な操作
- 酸素・窒素・アルゴン
- バルク30%
- オンサイト12%
- パッケージ26%
- 特殊ガス8%
- 産業ガス関連機器・工事20%
- エレクトロニクス関連機器・工事5%
- 化学及びエネルギー20%
- エレクトロニクス18%
- 医療10%
- 食品及び飲料9%
- 鉄鋼及び金属8%
- 自動車及びその他輸送機器5%
- その他31%
つくり方:日本産業・医療ガス協会(JIMGA)によると、空気は窒素78.08%・酸素20.95%・アルゴン0.93%でできています。大量で純度の高い酸素・窒素は、空気を圧縮・冷却して液化し、沸点の違いで分ける「深冷分離」でつくります。化学反応や燃焼はなく、物理的な操作だけです。原料の空気にお金はかかりませんが、取り出す工程で多くの電力を使い、協会は製造コストの大半を電力が占めると説明しています(JIMGA「空気分離によるガスのつくられ方」)。
届け方:使う量に応じて、届け方が変わります。代表的な容器は47リットル・14.7MPaで、量が増えると容器を束ねたカードル、超低温容器(LGC)、さらに大量ならローリーで運んで客先の貯槽(CE)に充填します。ローリーのタンクは2,000〜17,000リットルで、高圧ガス保安法の規定でタンクの内容積の90%を超えて積めません。大口の需要家には、工場と需要家を配管で直接結ぶ方法もあり、石油化学コンビナート・製鉄所・半導体工場で多く使われています(JIMGA「酸素・窒素・アルゴンの運ばれ方」)。
日本酸素ホールディングスは、この届け方を3つに分けて説明しています。客先の隣に工場を置いて配管で常に送る「オンサイト」(鉄鋼・石油化学・石油精製など)、客先の貯槽にローリーで運ぶ「バルク」、容器(シリンダー)を配送する「パッケージ」です。同社のサーモス事業を除く2026年3月期の売上収益1兆3,263億円の構成は、製品別でバルク30%・オンサイト12%・パッケージ26%・特殊ガス8%、残りが機器・工事です。産業別では、化学及びエネルギーが20%、エレクトロニクスが18%、医療が10%、食品及び飲料が9%、鉄鋼及び金属が8%でした。地域別の区分(セグメント)で見ると、外部顧客への売上のうち日本は29.9%で、米国・欧州・アジア・オセアニアが67.7%を占めます(計算値。日本酸素ホールディングス 2026年3月期 決算短信と2026年3月期 第4四半期 決算電話会議資料(決算補足資料))。これは1社の構成で、業界全体の値ではありません。
産業ガスの会社の事業の組み合わせは、会社によって違います。エア・ウォーターは、産業ガスを含む「デジタル&インダストリー」のほか、LPガスなどの「エネルギーソリューション」、医療用ガスなどの「ヘルス&セーフティー」、食品の「アグリ&フーズ」の区分を持ちます(エア・ウォーター 2026年3月期 決算短信)。半導体の工場で使う特殊なガスは「半導体材料・電子材料の業界地図」で触れます。
変化:エチレンの生産と設備の集約、半導体材料、エネルギー
化学の分野では、川上と川中で違う向きの変化が起きています。
エチレンの生産は2021年より2割ほど少ない水準です。石油化学工業協会の年次統計によると、エチレンの生産量は2021年の634.9万トンから、2024年に498.9万トン、2025年に514.4万トンになりました(暦年、石油化学工業協会「石油化学製品の生産」)。2025年は2024年より少し増えましたが、2021年より約19%少ない計算です。三井化学は、国内のナフサクラッカーの稼働率が川下の需要の鈍化で低調だったと書いています。
三井化学の開示では、設備の集約が合意されています。三井化学の決算短信によると、西日本地区では旭化成と三菱ケミカルが持つエチレン設備を、千葉地区では出光興産が持つ設備を、それぞれ停止し、三井化学グループの設備に生産を集約することで合意しました。時期は、西日本が2030年度を目途、千葉が2027年7月です。段階は、千葉が2025年12月の「最終合意」、西日本が2026年1月の「基本契約」です(出光興産・三井化学「千葉地区エチレン装置集約による生産最適化」の最終合意について、旭化成・三井化学・三菱ケミカル「西日本エチレン生産体制のグリーン化推進に向けた基本契約締結」)。どちらもこれからの予定です。旭化成は、2030年度を目途に水島製造所のスチレンモノマー・低密度ポリエチレン・高密度ポリエチレンの生産を終え、アクリロニトリルの生産ラインの1つを止める方針を決め、携わる従業員251名は社内で再配置する予定と開示しています。設備や地域ごとの話と、2026年の原料ナフサの調達と稼働の変化は「石油化学の業界地図」で扱います。
半導体材料は伸びています。前の章で見たとおり、信越化学工業の電子材料はAI関連の需要で増益でした。旭化成も、マテリアルの中のエレクトロニクス事業がAIサーバー向けなどで増益だった一方、エッセンシャルケミカル事業は在庫受払差(原料価格の変動による在庫の損益)と水島の大規模な定期修理で減益だったと書いています。同じ会社の中でも、事業によって向きが逆です。
エネルギーを多く使うことも、化学の課題です。東ソーは、クロル・アルカリをエネルギー多消費型の事業とし、再生可能エネルギーの利用や省エネ、南陽事業所でのバイオマス発電所の建設を進めています。経営課題として「成長」と「脱炭素」の両立を掲げ、エネルギー転換やCO2の回収に取り組むとしています。これは1社の取り組みの例です。産業ガスも、前の章のとおり電力を多く使う事業です。
化学の仕事と、求人票で確かめること
化学の会社の仕事は、段階によって比重が違いますが、主に次の種類に分かれます。会社によって呼び名は違うため、ここでは仕事の中身で分けます。
| 仕事の種類 | 主な中身 | 仕事に影響する変化 |
|---|---|---|
| 研究開発 | 新しい物質や材料、製法を開発する | 新規化学物質の届出、顧客の新製品 |
| プロセス(生産技術) | 研究の成果を工場で量産できる工程にし、運転を改善する | 設備の集約・停止、省エネ |
| 設備・プラント | 設備を設計・建設・改造し、保全する | 設備の停止、エネルギーの転換 |
| 製造・保安 | プラントを運転し、高圧ガスや危険物を安全に扱う | 法律の許可・届出・資格 |
| 品質保証 | 製品が規格に合うかを確かめ、SDSなどの情報を整える | 化管法の対象物質の見直し |
| 営業 | 顧客と仕様・価格・納期を話し合う | 原料価格と市況、顧客の需要 |
会社の職種名の例を2つ挙げます。三井化学の新卒の総合職(技術系、27卒)は、研究開発(基礎研究・開発研究)、プロセスエンジニア、設備エンジニア(機械、電気、計装・制御、土木・建築)に分かれています。会社の説明では、プロセスエンジニアは研究の成果を製造プラントで実現するプロセスの開発やスケールアップ、設備エンジニアはプラント設備の設計・建設・改造から保全までを担います(三井化学の募集職種、キャリタス就活の掲載)。住友化学は、第二新卒向けにプラントエンジニア(機械・電気・計装)を募集し、化学品の製造工場の増産・改良工事の設計・工事・保全などを担うとしています(住友化学の採用ページ)。どちらも1社の区分で、ほかの会社も同じ呼び名とは限りません。
保安の資格には、法律に名前があるものがあります。高圧ガス保安法の製造保安責任者免状(化学責任者・機械責任者など)と、消防法の危険物取扱者(甲種・乙種など)です。どの職種や事業所で必要になるかは会社によって違うため、求人票で確かめてください。
設備の集約や停止は、工場で働く人の配置にも影響します。旭化成の水島の例では、従業員を社内で再配置する予定と開示されています。プラントの運転の交替勤務の有無や勤務地も、事業所と職種によって違います。求人票と会社の資料では、次の点を確かめます。
- 段階:配属される事業が、川上(石油化学・基礎化学品・産業ガス)、川中(機能材料・電子材料)、川下(樹脂製品・塗料・農薬など)のどこにあるか
- 稼ぎ方:その区分の利益が、原料価格と市況で動くか、顧客の製品の需要で動くか。決算短信の区分名と利益の名前
- 変化:設備の集約・停止の計画がある事業所か、伸びている事業か
- 法律と資格:扱う物質や設備にかかる法律と、求められる資格
- 勤務の形:交替勤務の有無、勤務地と転勤の範囲
大きさの数字を見るときは、「化学工業」が医薬品・化粧品を含む範囲か、プラスチック製品・ゴム製品まで足した範囲か、いつの数字かを確かめます。この点が分かったら、次はその段階の業界地図で、会社ごとの違いと仕事の流れを確かめます。

