ビルメンテナンス(ビルメン)の求人には、建物の床やトイレを清掃するスタッフ、電気・空調・給排水の設備を運転して点検する設備管理(会社によって設備エンジニア、設備職などと呼びます)、現場をまとめる責任者、建物の持ち主に管理を提案する営業まで幅があります。設備の仕事は、持っている資格で任される役割が変わります。
ビルメンテナンスの会社は、建物を持つ会社や国・自治体から、建物を使いながら保つための作業を受託します。この記事では、仕事の分け方、法律が誰に何を求めているか、誰から、どの契約経路で受託するか、何で稼ぐか、会社の例、人手不足と資格、求人の確認点を順に見ます。
建物の施設警備を総合管理の中で受ける会社もありますが、施設警備(建物の警備)の仕事と警備業のルールは「警備の業界地図|施設警備・交通誘導・機械警備・現金輸送は、誰から受注しどう稼ぐのか」で扱います。設備の新設や更新の工事は「電気工事・空調設備工事の業界地図|電気・空調・水まわりの工事は誰が請け負い、どこで稼ぐのか」、建物の持ち主の代わりに賃貸の収支やテナントを管理するPM(プロパティマネジメント)とマンション管理は「不動産管理の業界地図|賃貸住宅管理・マンション管理・ビルPMの違いと仕事」で扱います。
清掃・設備管理と、施設・人・物を守る警備の契約や制度を分けて見る場合は、警備の業界地図で確かめられます。
ビルから出るごみの収集・運搬・処分は「廃棄物処理・リサイクルの業界地図|ごみは誰の責任で、誰が集め、処理し、資源に戻してどう稼ぐのか」、病院や施設の給食は「給食の業界地図|給食会社は、社員食堂・病院・介護施設・学校との契約で、どう採算を取るのか」で扱います。空調機や昇降機をメーカーの系列が保守する仕事は「空調・冷凍機器の業界地図|ビルの空調や冷蔵ショーケースは、誰が作り、設備工事・保守・冷媒の転換でどう稼ぐのか」と「ポンプ・ボイラ・ベアリングなど汎用機械の業界地図|工場や建物を動かす機械は、機器販売と保守でどう稼ぎ、仕事はどう違うのか」で扱います。家庭向けのハウスクリーニングは、この記事では扱いません。
ビルメンテナンスの仕事:清掃・設備・衛生
全国ビルメンテナンス協会は、ビルメンテナンスの主な業務を、清掃管理、衛生管理、設備管理、建物・設備保全、警備防災に分けて紹介しています。
| 業務 | 主な中身 |
|---|---|
| 清掃管理 | 床だけでなく壁や扉、什器まで、建物の用途と素材に合わせて美観と衛生を保つ。汚れる前に手を打つ予防清掃や、消毒・殺菌も含む |
| 衛生管理 | 空気環境の測定、飲み水の残留塩素などの水質検査、貯水槽や排水槽の清掃、ねずみ・昆虫の防除 |
| 設備管理 | 設備機器の運転・監視、点検、整備、保全と、記録の分析・保存 |
| 建物・設備保全 | 受変電設備・ボイラー・冷凍機などの保守、法定点検や性能検査の受検 |
| 警備防災 | 常駐警備、防災センターでの監視・制御、防火管理 |
協会は、最近のビルの設備はコンピュータで自動的に制御され、中央監視盤で監視するようになったと説明しています。設備管理の人は、個々の機械だけでなく、設備全体のつながりやエネルギーまで見る役割を持つということです。清掃についても、協会は、単純な作業の積み重ねではなく、専門的な知識と管理の力が求められるようになったとしています。
どの業務を受けているかは、協会のビルメンテナンス情報年鑑2026(第56回実態調査)で分かります。協会の会員2,809事業所に調査し、1,060事業所が答えた調査です。会員の回答で、業界のすべての会社を数えた調査ではありません。設問は「外注している業務も含む」として、受けている業務を複数選んでもらっています。
| 業務(上位12項目) | 回答した事業所の割合 |
|---|---|
| 一般清掃 | 94.2% |
| 貯水槽清掃 | 82.4% |
| 窓ガラス・外壁洗浄 | 78.5% |
| 害虫防除 | 74.5% |
| 空気環境測定 | 74.0% |
| 設備管理 | 70.2% |
| 水質検査 | 68.3% |
| 排水管清掃 | 54.4% |
| 警備(施設警備・駐車場警備のみ) | 53.7% |
| 雑排水槽の清掃 | 49.7% |
| 建物・設備の補修 | 48.2% |
| 空調ダクト清掃 | 41.3% |
全体(n=1,060)の値で、複数選択のため足しても100%になりません。清掃はほぼすべての回答者が受けています。衛生管理の作業では、貯水槽清掃・害虫防除・空気環境測定が7〜8割、水質検査が68.3%です。設備管理は70.2%でした。防災センター管理は28.5%でした。ビルメンテナンス以外の業務では、設備工事が28.5%、廃棄物処理業が23.4%です。工事やごみの処理まで同じ会社が受ける例がある、ということで、それぞれの仕事は送り先の記事で扱います。
業界の大きさには、いくつかの物差しがあり、互いに足したり比べたりはできません。年鑑は、回答企業の売上高と会員企業数から拡大推計して、2024年度の市場規模を約5.51兆円(2023年度は約5.18兆円)と試算しています。協会の会員の回答をもとにした試算で、推計の方法で値が変わります。別の物差しとして、協会が厚生労働省の労災保険の統計からまとめた「ビルメンテナンス業」の区分では、2024年の従業員数が1,157,153人(約116万人)、事業場数が23,721でした。
法律が義務を課すのは建物の側
ビルメンテナンスには、いくつもの法律がかかわります。大事なのは、法律の多くが義務を課している相手は建物の所有者や管理者で、ビルメン会社ではないことです。ビルメン会社は、義務を負う建物の側から作業を受託します。
特定建築物の所有者や占有者など維持管理の権原を持つ人は、国の基準(建築物環境衛生管理基準)に従って維持管理をしなければなりません(第4条第1項)。基準は、空気環境の調整、給水と排水の管理、清掃、ねずみ・昆虫などの防除について定めます。特定建築物でなくても、多くの人が使う建物は、この基準に従うよう努めなければならないとされています(同第3項、努力義務)。
特定建築物の所有者など(法律では「特定建築物所有者等」)は、使い始めてから1か月以内に都道府県知事など(保健所を置く市・特別区は市長・区長)へ届け出なければなりません(第5条)。さらに、建築物環境衛生管理技術者を、免状を持つ人の中から選任しなければなりません(第6条第1項)。管理技術者は、所有者などに意見を述べることができ、所有者などはその意見を尊重しなければなりません(同第2項)。免状は、講習を修了した人か、国家試験に合格した人に厚生労働大臣が交付します。試験を受けるには、2年以上の実務の経験が必要です(第8条第5項)。届出をしない、管理技術者を選任しないといった違反には、30万円以下の罰金があります(第16条)。
施行規則は、管理技術者を特定建築物ごとに選任するとしています。2つ以上の特定建築物を兼ねる場合は、所有者などが業務に支障がないことを確かめなければならず、条件つきで兼任できます(第5条)。
建築物衛生法には、会社の側の制度もあります。次の8つの事業を営む人は、営業所ごとに都道府県知事の登録を「受けることができる」と定めています(第12条の2)。登録しないと営業できない許可の制度ではなく、受けるかどうかを会社が選ぶ任意の制度です。登録の有効期間は6年で、登録した営業所は「登録建築物清掃業」などと表示できます(第12条の3)。協会は、登録業者は優良業者の指標になっていると説明しています。
協会がまとめた登録営業所数(令和6年度、厚生労働省の資料による)は次のとおりです。営業所の数で会社の数ではなく、1つの営業所が複数の登録を持つことがあるため、足し合わせません。
| 登録の種類 | 登録営業所数 |
|---|---|
| 建築物清掃業 | 3,904 |
| 建築物空気環境測定業 | 872 |
| 建築物空気調和用ダクト清掃業 | 111 |
| 建築物飲料水水質検査業 | 495 |
| 建築物飲料水貯水槽清掃業 | 6,435 |
| 建築物排水管清掃業 | 1,169 |
| 建築物ねずみ昆虫等防除業 | 2,688 |
| 建築物環境衛生総合管理業 | 2,168 |
登録には、人の条件があります。たとえば清掃業の登録では、清掃作業の監督者が、ビルクリーニング技能検定1級の合格者か管理技術者の免状を持つ人で、登録講習を修了していることが求められます。従事者全員が受けられる研修を定期的に行うことも条件です(施行規則第25条)。清掃・空気環境・給排水などをまとめて受ける総合管理業では、業務全般を統括する人や、空気環境の調整・給排水の管理などの監督者(ビル設備管理技能検定の合格者など)を置きます(第30条)。
ほかの法律も、義務の相手は建物の側です。
- 建築基準法第12条:政令で定める建物と、特定行政庁が指定する建物(条文では「特定建築物」と呼びますが、建築物衛生法の特定建築物とは別の定義です)の所有者(所有者と管理者が違うときは管理者)は、建築士や建築物調査員に定期に建物を調査させ、特定行政庁に報告しなければなりません。昇降機などの設備も、所有者が定期に検査させて報告します。国や都道府県などの建物は、報告ではなく点検の規定です(同第2項)
- 消防法第8条:学校・病院・百貨店など多くの人が出入りする建物で政令で定めるものは、管理の権原を持つ人が防火管理者を定め、消防計画の作成や消防用設備等の点検整備などをさせなければなりません
- 消防法第17条の3の3:建物の関係者は、消防用設備等を定期に点検させ、結果を消防長または消防署長に報告しなければなりません。政令で定める建物では、消防設備士などの資格者に点検させます
- 電気事業法第43条:事業用の電気工作物を設置する人は、保安の監督をさせるため電気主任技術者を選任しなければなりません
協会は、ビルメンテナンスでは警備業務や防火管理業務を、設備管理や清掃管理などの常駐管理の中で一体として行っていると説明しています。建物の点検や調査を、どの会社のどの資格者が受けるかは、建物と契約ごとに違います。
ビルメンテナンスの仕事は清掃・設備・衛生に分かれ、法律の義務は建物の側にある
日常清掃、定期清掃、窓ガラス・外壁の洗浄
管理基準(清掃を含む)に従って維持管理する=特定建築物の維持管理の権原者(建築物衛生法第4条)
建築物清掃業、建築物環境衛生総合管理業
ビルクリーニング技能士
清掃業の登録では、監督者に1級合格者などで登録講習の修了者を置く
電気・空調・給排水の運転監視・点検・小修繕、エネルギー管理
電気主任技術者を選任する=事業用電気工作物の設置者(電気事業法第43条)
管理基準の空気環境の調整・給排水の管理=維持管理の権原者
建築物環境衛生総合管理業
ビル設備管理技能士
ハリマビステムの昇格要件の例:第2種電気工事士、危険物取扱者乙種4類、2級ボイラー技士、第3種冷凍機械責任者
空気環境測定、貯水槽清掃、水質検査、排水管清掃、ねずみ・昆虫等の防除
管理基準に従って維持管理する=維持管理の権原者(第4条)
管理技術者の選任(第6条)と届出(第5条)=特定建築物所有者等
空気環境測定業、空気調和用ダクト清掃業、飲料水水質検査業、飲料水貯水槽清掃業、排水管清掃業、ねずみ昆虫等防除業
建築物環境衛生管理技術者の免状
消防用設備等の点検、防火管理業務、定期調査・検査への対応
防火管理者を定める=管理権原者(消防法第8条)
消防用設備等を点検させ報告する=関係者(第17条の3の3)
定期調査・検査を報告する=所有者(または管理者)(建築基準法第12条)
建築物衛生法の登録の対象ではない
消防設備士など。定期調査は建築士・建築物調査員
施設警備(建物の警備)は「警備の業界地図」で扱う
義務は建物の側、登録は会社の側の任意。ビルメン会社は、義務を負う建物の側から作業を受託する。
建築物衛生法の特定建築物は、店舗・事務所などの用途で延べ3,000㎡以上、専ら学校などで8,000㎡以上の建物。建築基準法第12条の「特定建築物」とは別の定義。技能士・電気工事士などは業界に共通の必須資格を示したものではない。
誰から受託するか:民間・自治体・国と再委託
年鑑で、ビルメンテナンスの業務を受けている施設の持ち主を見ると、本社の回答(n=908)では、民間企業の施設が95.8%、地方自治体の施設が73.9%、国の施設が42.6%でした。複数選択で、足しても100%にはなりません。民間の施設と公共の施設の両方を受ける会社も多いと読めます。
施設の種類(同じく本社n=908、複数選択)では、事務所・オフィスビルが89.1%で最も多く、病院・クリニックなどの医療施設が70.8%、官公庁舎・自治体庁舎・役場施設が69.1%、学校・大学などが62.8%、住宅・マンションなどが62.6%、介護・療養施設が51.5%、ホテル・旅館などが46.8%、商業施設が46.0%、工場・物流倉庫が45.4%と続きます。オフィスだけでなく、病院や学校、介護施設も、多くの回答企業の仕事場になっています。
仕事は建物の持ち主・国・自治体から直接、または管理会社を通して来て、専門の作業を他社に任せることもある
民間の建物の持ち主・建物を使う会社
国・自治体入札で決めることがある。自治体は最低制限価格を設けることができる(地方自治法施行令第167条の10)
清掃・設備・衛生を組み合わせて受託
常駐巡回
工事・ごみの処理・警備も受ける会社がある(それぞれ別の記事へ)貯水槽清掃、ねずみ・昆虫の防除、空気環境測定など
建築物衛生法の登録業の種類に当たる作業の例。どれだけ外注されているかの割合は年鑑からは分からない複数選択のため、足すと100%にならない。全国ビルメンテナンス協会の会員への調査で、業界のすべての会社を数えたものではない。
受託経路は主に3つです。1つ目は、建物の持ち主や使う会社、国・自治体から直接受ける形です。2つ目は、建物の持ち主から管理を任されたPM会社や管理会社を通して受ける形です。PM会社の仕事は「不動産管理の業界地図」で扱います。3つ目は、ほかのビルメン会社が受けた仕事の一部を受ける形です。
清掃・設備・衛生をまとめて受ける会社は、貯水槽の清掃やねずみ・昆虫の防除、空気環境の測定などの専門の作業を、自社で行うこともあれば、専門の会社に任せることもあります。年鑑の受注業務の設問が「外注している業務も含む」と尋ねているのは、こうした形があるためです。ただし、どれだけの仕事が外注されているかの割合は、この調査からは分かりません。
働く形には、建物に常駐する形と、点検の場所を回る巡回の形があります。ハリマビステムの採用ページは、設備エンジニアが建物に常駐し、電気・空調・建築・給排水の設備の運転監視・保守点検や補修をすると説明しています。同じページの大学キャンパスの現場では、広い敷地に点在する点検箇所を巡回するとしています。
国や自治体の仕事では、入札で受託する会社を決めることがあり、値段の決め方にルールがあります。地方自治法施行令第167条の10第2項は、自治体の長が一般競争入札で請負の契約を結ぶとき、必要と認めれば、あらかじめ最低制限価格(これより安い入札は落札できない下限)を「設けることができる」としています。価格だけでなく、ほかの条件も合わせて最も有利な人を落札者とすることもできます(第167条の10の2)。どちらも自治体が選ぶ仕組みで、ビルの清掃などの業務委託にどう使うかは自治体ごとに違います。
何で稼ぐか:人の配置と契約改定
ビルメンテナンスの値段は、どんな作業を、どれだけの人数と時間で行うかで決まる部分が大きい仕事です。国の施設の保全業務の費用の積み上げ方を見ると、その形が分かります。国土交通省の資料では、作業の量(台数・面積・回数など)に標準の手間をかけて人の量を出し、それに労務単価をかけた直接人件費をもとに、物品費や管理費、一般管理費を積み上げます。人件費が上がれば、契約の値段を見直さなければ利益が減る構造です。
人件費の目安が上がる中で、契約の値上げ幅も2025年度に大きくなった
| 調査年度 | 官公庁 | 民間 |
|---|---|---|
| 2009 | −2.9 | −0.4 |
| 2010 | −2.9 | −1.0 |
| 2011 | −2.4 | −0.6 |
| 2012 | −2.9 | −0.7 |
| 2013 | −0.8 | −0.2 |
| 2014 | 0.6 | 2.7 |
| 2015 | 0.4 | 1.5 |
| 2016 | −1.0 | 1.7 |
| 2017 | 0.9 | 2.4 |
| 2018 | 0.9 | 3.1 |
| 2019 | 3.0 | 4.9 |
| 2020 | 0.8 | −0.3 |
| 2021 | 0.2 | −0.5 |
| 2022 | 1.1 | 0.6 |
| 2023 | 1.8 | 2.1 |
| 2024 | 2.7 | 2.6 |
| 2025 | 6.2 | 10.0 |
- 保全技師等
- 24,787円7.7%増
- 清掃員
- 16,793円9.4%増
- 警備員
- 17,040円9.1%増
左:全国ビルメンテナンス協会の会員企業の回答で、契約を結び終えた案件だけを数えた値。グラフの値は年鑑の図表2-3-2の数値ラベルから読んだ。右:諸経費を含まず、民間の契約単価や働く人の賃金そのものではない。令和8年度の前年度比は国交省の発表値(単純平均から算出)。平成24年度から表示。棒の長さは令和8年度を最大とした長さで、本記事で計算。
契約の値段の動きは、年鑑の契約改定率で見ます。続いている物件の契約額が前の年度からどれだけ増えたかの割合で、契約を結び終えた案件だけを数えます。2025年度は官公庁が6.2%、民間が10.0%でした。前回の調査より官公庁で3.5ポイント、民間で7.4ポイント高く、協会は2009年度の調査以降で最も高い上昇幅としています。官公庁・民間とも、2020年度の調査で上昇に急ブレーキがかかった後、2022年度から再び上がっています。協会は、物価の高騰や賃上げの流れの中で、価格転嫁が順調に進んでいることがうかがえると見ています。
改定率には地区と規模による差もあります。地区別では、官公庁は中国地区の11.9%、民間は近畿地区の15.2%が最も高い値でした。民間では、月商(1か月の売上)の規模が大きい会社ほど改定率が高い傾向があり、月商1億円以上では12.8%です。
人件費の側の目安が、国土交通省の建築保全業務労務単価です。国の施設の保全業務の費用を積算するための参考の単価で、令和8年度の全国・全職種の平均は1日(8時間)19,540円、前の年度より8.5%上がり、平成25年度から14年続けて上がっています。職種別の全国平均は、保全技師等が24,787円(7.7%増)、清掃員が16,793円(9.4%増)、警備員が17,040円(9.1%増)です。この単価は働く人に払われる賃金にかかわる部分で、会社の諸経費を含みません。国交省は、外注の契約の単価や、雇われた人に払う賃金を縛るものではないとしています。民間の契約の値段や、求人の給与そのものではありません。
値段を上げる交渉に悩む会社もあります。年鑑の悩みごと(本社n=908、複数選択)のうち値段と費用にかかわる項目では、「賃金上昇が経営を圧迫している」が67.5%、「オーナーに対して契約料金の交渉が難しくなっている」が45.0%、「価格競争が激しいために収益率が落ちている」が28.7%でした。
利益の水準は、年鑑の営業利益率で見ます。ビルメンテナンス以外の事業も含む会社全体の営業利益率で、2024年度の回答企業の平均は6.1%でした。「5%以上」が37.2%で最も多い一方、「0%未満」も9.7%あります。地区による差もあり、中国地区では「0%未満」が19.4%でした。回答企業のビルメンテナンス業務の売上高の平均成長率は、2023年度から2024年度で4.7%でした。2025年度の売上高の見通しは全体の平均で6.3%増ですが、月商1,000万円未満の会社では「0%未満」が24.4%あり、規模や地区で見通しが分かれています。
会社の例:事業の組み合わせはさまざま
ビルメンテナンスの会社は、清掃・設備・衛生をまとめて受ける会社から、特定の作業を専門にする会社まであります。上場している会社でも、決算期や、事業の分け方(セグメント)がそろっていません。ここでは会社ごとに、期と開示の単位を書いて見ます。金額は会社どうしで比べられません。
主な会社の例は、施設管理を組み合わせる事業も、開示の単位もそれぞれ違う
- 期・基準
- 2026年3月期、日本基準
- 開示の単位
- 建物管理運営事業(ビル管理業務と保安警備)。清掃・設備・警備の内訳は分けていない
- 組み合わせ
- 住宅管理運営(マンション・公営住宅)、環境施設管理(上下水道処理施設など)、不動産ファンドマネジメント
- グループ
- イオン株式会社のグループ(2025年7月17日に上場廃止)
- 期・基準
- 2026年2月期第1四半期(3か月)、日本基準
- 開示の単位
- 設備管理・警備・清掃・建設施工・資材関連・自動販売機・サポートの7セグメント
- 期・基準
- 2026年3月期、日本基準
- 開示の単位
- 建築物総合サービス事業の単一セグメント
- 採用ページ
- 専門職採用(清掃・設備・警備ほか)がある
- グループ
- 東急不動産ホールディングスの管理運営事業に属するグループ会社(持ち分100%)
- 期・基準
- 2026年3月期(ホールディングスの開示)
- 開示の単位
- 「管理」の内訳のマンション管理・ビル管理(グループの参考値、会社単体の数字ではない)
- 手がかり
- 年鑑の回答事業所では、常勤従業員50人未満が53.2%(計算値)。支社・営業所を含む事業所の数で、会社の数ではない。協会は、規模の小さい会社ほど人手不足と賃上げの負担が重いと推察している
マンション管理・公営住宅の管理は「不動産管理の業界地図」、警備事業・保安警備は「警備の業界地図」で扱う。
日本管財ホールディングスは、ビル管理業務と保安警備を「建物管理運営事業」として開示しています。2026年3月期(日本基準)の外部売上高は946億68百万円(前の期より10.6%増)、セグメント利益は89億29百万円(12.9%増)でした。会社は、既存の管理案件の契約更改が順調だったことと大阪・関西万博関連の業務の受託で売上が増え、人件費の上昇を料金改定や作業効率の見直しで補ったと説明しています。この金額には警備が含まれ、清掃・設備・警備の内訳は分かれていません。ほかに、マンションや公営住宅を管理する住宅管理運営事業、上下水道の処理施設などを管理する環境施設管理事業があり、PFI(民間の資金とノウハウで公共施設を整備・運営する方式)などにも広げるとしています。
イオンディライトは、設備管理・警備・清掃・建設施工・資材関連・自動販売機・サポートの7つのセグメントで開示していました。2026年2月期の第1四半期(2025年3〜5月の3か月、日本基準)では、設備管理事業の売上高が204億30百万円、清掃事業が193億45百万円です。3か月の値で、1年の値ではありません。会社は、人員不足と人件費の上昇の中で、お客さまとの話し合いによる単価の見直しが増収につながったと説明しています。イオンディライトは、イオン株式会社の公開買付け(2025年3〜4月)と株式の併合の手続きを経て、2025年7月17日に東京証券取引所の上場を廃止しました(東京証券取引所の決定、会社の決算情報のページ)。株式の併合はイオンの完全子会社になるための手続きで、効力の発生は2025年7月22日の予定と短信に書かれています。
ハリマビステムは、事業を「建築物総合サービス事業」の1つだけで開示しています。2026年3月期(日本基準)の売上高は309億44百万円(10.4%増)、営業利益は15億16百万円(33.5%増)でした。前の期に受注した新しい物件の本格稼働や臨時の作業が増え、続けてベースアップを行ったことで人件費が増えたと説明しています。今後については、既存の物件で、お客さまのコスト削減を目的とした契約価格の見直しや仕様の変更が懸念されると書いています。ビルメンテナンスの値段が、仕様と人数の取り決めで動くことがよく分かる説明です。
東急コミュニティーは、東急不動産ホールディングスのグループ会社の紹介で、管理運営事業に属し、マンション管理、ビル・施設マネジメント、公共施設管理運営を手がける会社とされています(持ち分100%)。ホールディングスの2026年3月期の決算短信では、管理運営事業の「管理」が2,262億円で、そのうちビル管理が1,047億円、マンション管理が1,215億円です(連結の調整前の参考値)。グループの値で、東急コミュニティー1社の数字ではなく、改修工事なども含まれます。期末の管理物件数は、ビル等が1,420件(前の期末は1,618件)、マンションが832,310戸でした。
協会の会員の回答からは、規模の小さい事業所が多いことが分かります。回答事業所の常勤従業員の規模は、20人未満が28.9%、20〜49人が24.3%、50〜149人が23.1%、150人以上が22.3%で、50人未満が合わせて53.2%(計算値)でした。会社の数ではなく、支社・営業所を含む事業所の数です。協会は、事業の規模が小さい会社ほど、人手不足に加えて賃上げの負担が重いと推察しています。
変化と仕事:人手不足・賃金・省力化・資格
協会は、人材の確保・育成を業界の最大の課題と見ています。年鑑の悩みごとでは、「現場従業員が集まりにくい」が88.5%で最も多くなりました。人に関するほかの項目では、「現場従業員の若返りが図りにくい」が74.1%、「現場管理者が育ちにくい」が55.1%、「専門技術者の確保が難しい」が47.1%です。協会は、現場管理者と専門技術者の2項目が前回の調査より4ポイント以上増え、現場の作業員以外の人手不足も課題として重く見られるようになっているとしています。
給与の目安として、年鑑は、30〜50歳くらいの常勤の従業員を中途採用で募集するときの平均月給を尋ねています(本社n=908)。2025年度の調査では、一般清掃が228,020円、設備管理が272,910円、警備が225,180円でした。パートタイマーの平均時給は、一般清掃が1,128円です。どれも募集するときの金額で、実際に払われた給与ではありません。前の年度(2024年度の調査)と比べると、常勤の募集月給は一般清掃が6.2%、設備管理が5.1%、警備が6.9%、パートの一般清掃の時給は6.7%高くなっています(年鑑の値から計算)。地区別では、常勤の募集月給はどの職種も東京が最も高く、設備管理は306,400円でした。
人を補う動きの1つが、外国人材です。出入国在留管理庁によると、在留資格「特定技能」のビルクリーニング分野で働く人は、1号が10,171人(2026年6月末、速報値)で、2025年12月末の8,395人から21.2%増えました。より熟練した2号は24人です。
作業を減らす工夫もあります。イオンディライトは、2025年3〜5月期の決算短信で、清掃事業で清掃ロボットやIoT(機械をネットにつなぐ技術)を使って業務の効率を上げていると説明しています。これは1社の説明で、ほかの会社がみな同じように使っているとは限りません。
設備管理の仕事では、資格がキャリアの節目になります。ハリマビステムの設備エンジニアの採用ページは、昇格の要件を次のように示しています(どれも社内の評価基準を満たすことが前提)。
| 役割 | 昇格の要件(ハリマビステムの例) |
|---|---|
| リーダー | 第2種電気工事士、危険物取扱者乙種4類、2級ボイラー技士、第3種冷凍機械責任者のうち2つと、勤続3年以上 |
| 班長 | 同じ4つのうち3つと、勤続5年以上 |
| 主任 | 第1種電気工事士、消防設備点検資格者、1級ボイラー技士、第2種冷凍機械責任者のうち3つと、勤続8年以上 |
これはハリマビステムの社内の要件で、業界に共通の必須の資格というわけではありません。同社は資格の取得を支える講習会を開いていると説明しています。同社のページでは、営業部が新しい物件を受注し、物件を管理するマネージャー、設備管理を担う設備エンジニア、工事を管理する部署が分担する体制も示しています。現場責任者や営業を目指す人は、どの役割に就くのかも確かめるとよいでしょう。
国の労務単価の技術者区分も、経験の段階の目安になります。点検・保守と運転・監視の区分は6つあり、保全技術員補は実務経験5年未満程度、保全技術員は5年以上10年未満程度、保全技師補は10年以上(設備の点検整備では15年未満)程度などとされ、受変電設備や昇降機の点検整備を指導できる保全技師Ⅰは実務経験15年以上程度です。これは国の積算のための区分で、会社の等級や給与を決めるものではありません。清掃の仕事では、技能検定のビルクリーニング技能士(1〜3級)が技能の目安になります。国の労務単価でも、清掃員Aの区分は1級ビルクリーニング技能士の資格を持つ人か、実務経験6年以上程度の人とされています。設備管理には、技能検定制度に基づくビル設備管理技能士(1級・2級)もあります。
職種の名前は会社ごとに違います。採用ページの表記の例です。
| 会社 | 採用ページの職種・区分の例 |
|---|---|
| ハリマビステム | 設備エンジニア、物件担当マネージャー、専門職採用(清掃・設備・警備ほか) |
| 東急コミュニティー | ビル設備管理、ビル営業コンサルタント、管理受託営業(キャリア採用)、設備技術コンサルタント(新卒の技術職) |
| 日本管財 | 新卒採用の総合職、設備職・警備職、キャリア採用 |
| イオンディライト | キャリア採用(会社は「設備管理をはじめ、多様な職種」と説明) |
日本管財は、2025年度の中途採用の比率を98%と公表しています。中途で入る人が多い会社の例です。
求人を見比べるときの確認点
- どの建物か:オフィス・病院・官公庁・学校・商業施設のどれか。延べ面積が大きく、建築物衛生法の特定建築物に当たる建物か
- 常駐か巡回か:1つの建物に通うのか、複数の場所を回るのか。夜間や宿直のある勤務か
- 発注者と契約経路:建物の持ち主から直接受けた仕事か、管理会社や元請の会社から受けた仕事か
- 仕事の範囲:清掃・設備・衛生のどこまでを担当するか。警備や工事、ごみの処理も同じ会社が受けているか
- 資格の扱い:入社後に取る資格、取得の支援、昇格の要件。会社が建築物衛生法の登録を受けているか
- 契約の見直しと人の配置:人手不足の現場で、1人あたりの担当がどれだけか

