化粧品会社の求人には、成分や中身を開発する研究開発、品質を守る品質保証や薬事、工場の生産や生産技術、店や取引先を回る営業、ブランドを育てるマーケティング、店頭でお客さまの相談に乗りながら売る美容職まで幅があります。同じ「化粧品」の求人でも、応募先が自社のブランドを市場に出す責任を負う会社なのか、ほかの会社のブランドの製品を受託して作る会社なのか、どの売り場や地域で稼いでいるのかで、仕事の中身が変わります。
この記事では、まず法律が化粧品をどう決めているか、誰がどんな責任で作って売るのかを確かめます。そのうえで、日本の工場から出ていく化粧品の大きさ、作り方、売り方、会社の事業構成、表示と広告のルール、仕事と変化を順に見ます。扱う品目は、化粧水・乳液・美容液・クリームなどのスキンケア、メイクアップ、フレグランス、日やけ止め、薬用化粧品です。
法律の上では、シャンプー・ボディソープ・ヘアカラー・歯みがきなども、化粧品か医薬部外品に当たりえます。生理用品や入浴剤は、医薬部外品の統計に入る品目です。これらの品目と、洗剤・紙おむつは「日用品・トイレタリーの業界地図|洗剤・紙おむつ・衛生用品のメーカーは、原料・工場・売り場のどこで稼ぐのか」で扱います。「トイレタリー」は法律の言葉ではなく、売り場や会社が使う呼び方です。品目がどちらの記事でも、許可や表示のルールはこの記事で説明します。
シャンプー、歯みがき、衛生用品など日用品側の品目・工場・流通を見る場合は、日用品・トイレタリーの業界地図で確かめられます。
この記事で扱わない範囲もあります。ドラッグストアの店の収益は「ドラッグストア・調剤薬局の業界地図|物販と調剤のどちらで稼ぎ、薬剤師・登録販売者の仕事はどう違うのか」、百貨店の売場の運営は「百貨店・総合スーパーの業界地図|売場を自分で運営するか、テナントに貸すか、再編で何が変わるのか」、ネット通販のモールや物流の仕組みは「EC業界地図|ネット通販は、自社で売る形とモールに出す形で、在庫・物流・決済・集客を誰が負担し、どこで稼ぐのか」で扱います。市販薬を含む医薬品は「医薬品の業界地図|新薬・後発品・市販薬の会社は、研究開発から販売のどこで稼ぎ、薬価にどう左右されるのか」、界面活性剤や香料など原料の化学は「化学メーカーの業界地図|石油化学から電子材料・樹脂製品まで、誰が何をつくりどう稼ぐのか」、化粧品を店へ届ける卸は「商社・卸売の業界地図」で扱います。美容室やエステの施術は扱いません。
化粧品とは:法律の「化粧品」と「医薬部外品」
化粧品は、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)で決められています。第2条第3項によると、化粧品は、体を清潔にする、美しく見せる、魅力を増す、顔立ちを変える、肌や髪を健やかに保つといった目的で、体に塗ったり散布したりして使う物です。人の体への作用が緩やかな物に限られます。病気の治療などの医薬品の目的を併せ持つ物と、医薬部外品は除かれます。
医薬部外品は第2条第2項で決められています。体への作用が緩やかな物のうち、口臭や体臭を防ぐ、あせもやただれを防ぐ、脱毛を防ぐ・育毛する・除毛するといった目的の物、人や動物の健康のためにねずみ・はえ・蚊・のみなどを防ぐ目的の物、厚生労働大臣が指定する物です。
求人や売り場でよく見る「薬用化粧品」は、法律の条文にある言葉ではありません。医薬部外品のうち、化粧品に近い使い方をする物の呼び名です。厚生労働省の統計は医薬部外品の分類の1つとして「薬用化粧品」を使い、業界団体の日本化粧品工業会の適正広告ガイドラインも、この言葉で効能の範囲を説明しています。
市場に出す前の手続きも、区分で変わります。
| 区分 | 法律の根拠 | 市場に出す前の手続き | この記事で扱う例 |
|---|---|---|---|
| 化粧品 | 第2条第3項 | 品目ごとの届出(第14条の9)。厚生労働大臣が指定する成分を含むものは、品目ごとの承認(第14条第1項) | スキンケア、メイクアップ、フレグランス、日やけ止め |
| 医薬部外品 | 第2条第2項 | 品目ごとの承認(第14条第1項)。大臣が基準を定めて指定するものは届出(第14条の9) | 薬用化粧品 |
承認は、国などが品目ごとに中身を審査して認める手続きです。届出は、決められた事項を前もって知らせる手続きです。どちらも、しなければならない義務です。
「化粧品」という言葉は、2つの意味で使われます。1つは法律の区分で、シャンプーも入りえます。もう1つは、会社が事業の区分に付ける名前です。たとえば花王の「化粧品事業」は、カウンセリング化粧品とセルフ化粧品を指し、洗顔料・UVケア製品・シャンプー・ヘアカラーは「ヘルスビューティケア事業」に入ります(2026年12月期 中間期決算短信)。この記事では、花王については化粧品事業だけを見ます。
誰の責任で売られるか:製造販売業者と製造業者
薬機法は、化粧品を「市場に出す人」と「作る人」を分けて決めています。
1本の化粧品は、製造販売業者の責任で市場に出て、作るのは自社工場か受託製造の工場
化粧品製造販売業許可(第12条。法律上は厚生労働大臣の許可で、化粧品・医薬部外品では事務を都道府県知事が行い、申請先は都道府県。5年ごとに更新)。総括製造販売責任者を置き、品質管理と市場に出した後の安全管理を行う(第17条)。品目ごとに届出(指定成分を含む化粧品と、医薬部外品は原則として承認)。容器に名前が載る(化粧品は第61条、医薬部外品は第59条)
↓ 届出・承認をして市場に出す。作るのは下の製造所
界面活性剤・油脂・香料など。原料の化学は化学メーカーの業界地図へ
製造業の許可は製造所ごと(第13条)。化粧品は「製造工程の全部又は一部」と「包装・表示・保管のみ」の2区分。責任技術者を置く
カウンセリング販売、セルフ販売、委託販売・直販、EC、免税店・海外。化粧品を売ることに薬機法の許可は要らない
容器の表示(製造販売業者の名前、成分)で、責任を負う会社と中身が分かる
「何人も」虚偽・誇大な広告をしてはならない。メーカーだけでなく、広告を作る会社・媒体・発信する個人も入りうる。違反には、厚生労働大臣が原則として課徴金を命じる(第75条の5の2)
- 化粧品製造販売業
- 4,439
- 化粧品製造業
- 4,424
- 医薬部外品製造販売業
- 1,506
- 医薬部外品製造業
- 2,172
数字は2025年度末の許可の数で、施設(許可)の数。会社の数ではない(1社が複数の製造所の許可や、製造販売業と製造業の両方の許可を持つことがある)。自社工場と受託製造のどちらが多いかは、この記事で見た統計からは分からない。
製造販売業者は、品質管理と、市場に出した後の安全管理を行う「総括製造販売責任者」を置かなければなりません(第17条第1項)。容器に書く事項も決まっています。化粧品は第61条、医薬部外品は第59条で、どちらも製造販売業者の名前と住所、製品の名前、製造番号などを書くことが義務です。自社の工場で作るか、ほかの会社に作ってもらうかにかかわらず、製品に名前が載り、責任を負うのは製造販売業者です。
作る人が、製造業者です。製造業の許可は、製造所(工場)ごとに受けます(第13条)。これも法律の上では厚生労働大臣の許可で、化粧品と医薬部外品では、施行令第80条により製造所のある都道府県の知事が事務を行います。化粧品の製造業の許可は、「製造工程の全部又は一部を行うもの」と「包装・表示・保管のみを行うもの」の2つに分かれます(施行規則第25条第3項)。医薬部外品は、無菌・一般・包装表示保管の3つです。化粧品と医薬部外品の製造業者は、製造所ごとに責任技術者を置かなければなりません(第17条第10項)。化粧品の責任技術者には(施行規則第91条第2項)、薬剤師、薬学や化学の課程を修めた人、薬学や化学の科目を修めて3年以上製造の業務に就いた人などがなれます。製造業の許可も5年ごとの更新です(施行令第10条)。
ブランドを持つ会社と製造所の関係は、大きく2通りです。1つは、製造販売業者が自社の工場で作る形です。もう1つは、受託製造の会社の工場で作ってもらう形です。どちらが多いかは、この記事で見た統計からは分かりません。受託製造の会社の側が、製造販売業の体制を持つこともあります。たとえばTOA(旧 日本コルマー)の会社概要には、役員として総括製造販売責任者が載っています。
許可を持たない会社が自社のブランドを出したい場合も、市場に出す責任は製造販売業の許可を持つ会社が負うことになります。容器の製造販売業者の名前を見ると、責任を負う会社が分かります。
どれくらい作られているか:3つの物差しを分けて読む
化粧品の大きさを示す公的な数字には、範囲も数え方も違う3つの物差しがあります。足したり比べたりせず、別々に読みます。
工場から出ていく化粧品は、皮膚用が最も大きく、2025年の販売金額は合計で約1兆3,907億円
令和6年(2024年)の生産金額。医薬部外品全体1兆4,347億円の42.2%、前年比1.1%減
薬用石けんや薬用シャンプーなども含む分類で、この記事の品目の範囲と同じではない
左の金額と足さない
左は作る事業所の販売金額で、小売の市場規模ではない。年報に合計がないため、月ごとの値を12か月分足した(本記事で計算、億円は千円の値から四捨五入1回)。棒の長さは2025年の皮膚用を100とした長さ(本記事で計算)。頭髪用の棒は灰色にした。シャンプー・染毛料などは日用品・トイレタリーの業界地図で詳しく扱う。
33品目の販売金額の合計は、2025年が約1兆3,907億円、2024年が約1兆3,745億円で、2025年は前の年の約101.2%でした(計算値)。2025年の内訳は、皮膚用が約6,293億円、頭髪用が約3,737億円、仕上用が約2,811億円、特殊用途が約967億円、香水・オーデコロンが約99億円です(計算値)。品目の例では、美容液が約1,219億円、化粧水が約1,204億円、ファンデーションが約861億円、日やけ止めが約652億円でした(計算値)。
頭髪用には、シャンプーや染毛料などが入ります。これらの品目は「日用品・トイレタリーの業界地図」で詳しく扱います。この金額は、作る事業所が販売した金額で、店頭で消費者が払った金額の合計(小売の市場規模)ではありません。
2つ目は、厚生労働省の薬事工業生産動態統計です。令和6年(2024年)の医薬部外品の生産金額は1兆4,347億円で、このうち薬用化粧品は6,051億円(42.2%)でした。前の年より1.1%減っています。統計の薬用化粧品という分類には、薬用石けんや薬用シャンプーなども含まれます。この記事が扱う品目の範囲と、そのまま重なるわけではありません。
化粧品月報の販売金額と、医薬部外品の生産金額は、別の調査で、数え方も違います。2つを足して、化粧品の市場の大きさとして読むことはできません。
3つ目は、許可の数です。厚生労働省の衛生行政報告例によると、2025年度末の許可の数は、化粧品製造販売業が4,439、化粧品製造業が4,424、医薬部外品製造販売業が1,506、医薬部外品製造業が2,172でした。これは施設(許可)の数で、会社の数ではありません。同じ会社がいくつもの製造所の許可を持つことも、製造販売業と製造業の両方の許可を持つこともあります。同じ統計では、化粧品の販売業には許可・登録・届出の数がありません。化粧品を店で売ることには、薬機法の許可が要らないためです。
作る:研究・処方開発、自社工場と受託製造
1本の化粧品ができるまでには、成分を選んで組み合わせる処方の開発、試作、量産のための検討、工場での製造と容器への充てん・包装、品質の検査があります。界面活性剤や油脂、香料などの原料をつくる化学の仕事は「化学メーカーの業界地図」で扱います。
自社工場の例が資生堂です。資生堂の新卒の募集要項(2027年度入社向け)では、国内工場の勤務先として那須工場・掛川工場・大阪茨木工場・福岡久留米工場を挙げています。製造系の仕事は、化粧品の中身の製造、包装ライン、機械の操作、工程の管理、設備の導入と保全などです。技術系の仕事は、量産化の検討、外装(容器など)の設計、品質管理、検査などです。研究は「Research & Development(総合職)」として別に募集しています。資生堂の決算では、基礎研究開発の部門の費用は、本社の費用などと一緒に地域のセグメントの外の「調整額」に入っています(2025年12月期 決算短信)。
受託製造の例がTOAです。2024年6月に、日本コルマーから社名を変えました。会社の沿革によると、戦後に化粧品の受託製造に特化して再出発し、1968年に米国の会社と技術提携を結び、1972年に日本コルマーの社名になりました。営業の種目には、化粧品と医薬部外品の受託生産、原料・資材の販売などが並びます。会社が公表している売上は696億200万円(2026年3月期)、従業員は2,448名(2026年3月末)です(会社概要)。上場していない会社の自社公表の値で、決算短信のセグメントとは性質が違います。TOAの生産体制のページによると、国内7拠点8工場に生産を分けています。
受託製造は、一般にOEMやODMと呼ばれます。OEMはほかの会社のブランドの製品を作ること、ODMは処方の開発や企画から引き受けることを指す業界の言葉で、法律の言葉ではありません。TOAは自社を化粧品のOEM/ODMの会社と説明しています。TOAの採用情報では、営業・企画の仕事を、お客さま(ブランドを持つ会社)の新製品の企画開発から生産、アフターフォローまでの総合的な窓口と説明し、研究開発の仕事にはオリジナル原料の開発も含めています。受託製造の会社の営業は、店ではなく、ブランドを持つ会社を相手にする仕事です。
ブランドを持つ会社が、受託製造も手がけることがあります。ポーラ・オルビスホールディングスは、育成中のブランドの業績の説明の中で、OEM事業の影響に触れています(2025年12月期 決算短信)。生産の場所も変わります。花王は、化粧品事業の中国の売上が、現地での生産の拡大などで大きく伸びたと説明しています(2025年12月期 決算短信)。
売る:カウンセリング販売・セルフ販売・直販・免税店と海外
化粧品は、売る場所と売り方で仕事が大きく変わります。ここでは、各社が決算で使う言葉で販路を見ます。求人や業界の記事では「制度品」「一般品」「訪問販売」という呼び方も見かけます。これらは業界で使われる呼び方で、この記事で見た会社の決算短信の区分ではありません。「訪問販売」は特定商取引法にも定義がありますが、販路の呼び名としての使い方と同じとは限りません。そのため、この記事では会社の開示の言葉で説明します。
どこで、誰が、どう売るのか:販路の型と、会社が開示で使う言葉
| 販路の型 | 売り場・経路の例 | 売る人・お客さまとの接点 | 会社が使う言葉の例 |
|---|---|---|---|
| カウンセリング販売 | 百貨店など(売り場の例)売場の運営は百貨店・総合スーパーの業界地図 | 販売員が相談に乗りながら売る。資生堂の美容職(勤務地は原則として得意先店舗。要項に店の種類の記載はない)、コーセー化粧品販売のビューティコンサルタント職 | 花王「カウンセリング化粧品」 |
| セルフ販売 | ドラッグストアなど店の収益はドラッグストア・調剤薬局の業界地図 | お客さまが自分で選んで買う。メーカーの営業は店や卸と取引する | 花王「セルフ化粧品」 |
| 委託販売・直販(会社の開示の言葉) | 会社が開示で委託販売チャネル・直販チャネルと呼ぶ経路 | 経路の仕組みは会社ごとに違う。応募先の説明で確かめる | ポーラ・オルビスHD:POLA「委託販売チャネル」、ORBIS「直販チャネル」。ORBISは直販とは別の経路として「外部チャネル」も開示 |
| EC | 直営のネット通販、越境ECモールの仕組みはEC業界地図 | 画面越しに売る。物流・決済は別の会社がかかわることもある | ポーラ・オルビスHD:JurliqueはオーストラリアでECのほか直営店・百貨店でも販売、中国では越境EC |
| 免税店・海外 | 空港・市中の免税店、海外の現地市場 | 旅行者や海外の消費者に売る。訪日客の動きに左右される | 資生堂「トラベルリテール」(中国・トラベルリテール事業)。コーセーHD:海外売上高の割合34.8%(2025年12月期) |
「制度品」「一般品」「訪問販売」は業界の通称で、この表では使っていない。コーセーHDのセグメント(化粧品事業・コスメタリー事業)はブランドを基礎にした区分で、販路別の区分ではない。
1つ目は、販売員がお客さまの相談に乗りながら売るカウンセリング販売です。花王は、化粧品事業の中身を「カウンセリング化粧品」と「セルフ化粧品」に分けています。資生堂の美容職(正社員、2027年度新卒)は、化粧品や美容食品などの紹介・販売と美容カウンセリングをする仕事で、勤務地は原則として資生堂の得意先の店舗です。コーセーのグループでは、コーセー化粧品販売がビューティコンサルタント職を採用しています。百貨店などの売場の運営そのものは「百貨店・総合スーパーの業界地図」で扱います。
2つ目は、お客さまが自分で選んで買うセルフ販売です。ドラッグストアは、その主な売り場の1つです。ドラッグストアの商品別の売上や店の収益の仕組みは「ドラッグストア・調剤薬局の業界地図」で扱います。メーカーから卸を通して店に届く流れもあり、卸の稼ぎ方は「商社・卸売の業界地図」で見られます。
3つ目は、会社が開示で「委託販売チャネル」「直販チャネル」と呼ぶ経路で売る形です。経路の仕組みは決算短信では説明されていないため、応募先の説明で確かめます。ポーラ・オルビスホールディングスは、POLAブランドの国内事業を「委託販売チャネル」の成長店舗群とその他のチャネルに分けて説明しています。ORBISブランドについては、「直販チャネル」と、それとは別の経路の「外部チャネル」に分け、直販チャネルでは購入単価が伸び、外部チャネルは売上が大きく伸びたとしています。POLAについては、ブランディングを強めるため、二次流通に向けた出荷を抑える精度を高める取り組みをしたとも書いています。
4つ目はネット通販です。ポーラ・オルビスホールディングスは、Jurliqueブランドについて、オーストラリアでECのほか直営店・百貨店でも売ること、中国では越境EC(国境を越えたネット通販)で売ることを挙げています。モールの仕組みや物流は「EC業界地図」で扱います。
5つ目は、免税店と海外です。資生堂は、空港や市中の免税店などで化粧品やフレグランスを売ることを「トラベルリテール」と呼び、2025年12月期から中国の事業と一つのセグメントにまとめました。コーセーホールディングスは、2025年12月期の海外売上高が連結売上高の34.8%だったとしています。
この記事で見た会社の決算短信は、百貨店・ドラッグストア・EC といった販路別の売上を示していません。資生堂は地域別、コーセーホールディングスはブランドを基礎にした区分、ポーラ・オルビスホールディングスは事業別に、売上を示しています。「どの販路で何割」は、会社の開示からは分かりません。
会社の事業構成:セグメントの切り方で中身が変わる
化粧品の会社は、事業の区分の切り方が会社ごとに違います。会計基準も、利益の名前も違います。そのため、会社どうしの売上や利益は比べず、1社ずつ「何を何と呼んでいるか」を見ます。
応募先はどの型の会社で、何で稼いでいるのか:セグメントの中身の違い
売上高2,616億円、営業利益104億円(前期は37億円の赤字)
中身はカウンセリング化粧品とセルフ化粧品。洗顔料・UVケア・シャンプーはヘルスビューティケア事業(日用品・トイレタリーの業界地図へ)
化粧品事業 2,623億円・168億円
コスメタリー事業 645億円・63億円
海外売上高の割合34.8%。セグメントはブランドを基礎にした区分
日本事業 2,953億円(売上の30.4%)
中国・トラベルリテール事業 3,422億円(35.3%)
日本事業には美容食品・一般用医薬品の販売も入る
化粧品・医薬部外品の受託生産、原料・資材の販売
役員に総括製造販売責任者を置く
キリンHDのヘルスサイエンス事業の中で開示
化粧品と栄養補助食品を合わせた数字で、化粧品だけの売上は示されていない
ビューティケア事業 外部売上高1,641億円、セグメント利益159億円
健康食品の製造・販売とファッション品の販売を含む
金額は百万円の値を億円に四捨五入した(花王は短信の億円の値)。同じ会社でも、期や区分の変更で数字の範囲が変わる(資生堂は2025年12月期から中国とトラベルリテールを1つのセグメントにまとめた)。
複数のブランドを国内外の複数の販路で売る会社の例が、資生堂とコーセーホールディングスです。資生堂の2025年12月期(IFRS=国際会計基準)の売上高は9,700億円、会社の指標であるコア営業利益は445億円でした。IFRSの営業利益は288億円の赤字です。セグメントは日本、中国・トラベルリテール、アジアパシフィック、米州、欧州の地域別で、日本事業の売上は2,953億円(売上の30.4%)、中国・トラベルリテール事業は3,422億円(35.3%)です。日本事業には、美容食品や一般用医薬品の販売も入ります。
コーセーホールディングスの2025年12月期(日本基準)は、ブランドを基礎にした2つのセグメントに分かれます。コスメデコルテ、雪肌精、ONE BY KOSÉ、アルビオン事業のブランドなどの「化粧品事業」は売上高2,623億円・営業利益168億円、ヴィセ、ファシオ、ソフティモ、サンカットなどの「コスメタリー事業」は645億円・63億円でした。化粧品事業の売上を地域で分けると、日本が1,493億円、北米が618億円、アジアが423億円、その他が89億円です。会社は、中国本土の事業が構造改革の効果で黒字に転じたと説明しています。
化粧品と健康食品などを合わせた事業を持つ会社の例が、ポーラ・オルビスホールディングスとファンケルです。ポーラ・オルビスホールディングスの2025年12月期(日本基準)のビューティケア事業は、外部売上高が1,641億円、セグメント利益(営業利益)が159億円でした。この事業には、化粧品のほか、健康食品の製造・販売とファッション品の販売も入ります。ブランドはPOLA、ORBIS、Jurlique、DECENCIA、THREE、FUJIMIです。
ファンケルは、2024年12月18日に上場廃止となり、キリンホールディングスの子会社になっています(日本取引所グループの公表)。今は、キリンホールディングスの「ヘルスサイエンス事業」の中で数字が示されます。キリンホールディングスの2025年12月期 決算短信(IFRS)では、ファンケルの2025年の売上収益は1,126億円、事業利益は96億円でした。この事業利益はキリンホールディングスの指標で、親会社へのマネジメントフィを引く前の値です。化粧品と栄養補助食品などを合わせた数字で、化粧品だけの売上は示されていません。キリンホールディングスは、化粧品事業では主力のクレンジングオイルが堅調で、「アテニア」ブランドが国内外で売上を伸ばしたと説明しています。
日用品も持つ会社の化粧品事業の例が、花王です。2025年12月期(IFRS)の化粧品事業は、売上高が2,616億円(前の期より7.2%増)、営業利益が104億円で、前の期の37億円の赤字から黒字になりました。会社は、Curél・KANEBO・SOFINA・SENSAIなど注力する6ブランドへの集中投資と、事業のスリム化の効果を挙げています。2026年1〜6月の中間期は、売上高1,310億円、営業利益58億円でした。花王全体の売上や利益は、化粧品事業の数字ではありません。
受託製造の会社の例が、前の章で見たTOAです。上場していないため、セグメントの開示はありません。
表示と広告のルール:品質保証とマーケティングの仕事に直結する
化粧品の容器に書く事項は、第61条で決まっています。製造販売業者の名前、製品の名前、製造番号などに加え、厚生労働大臣が指定する成分を含む化粧品はその成分の名前を書きます。化粧品に配合した成分をすべて表示する仕組み(全成分表示)は、この規定と、厚生省が平成12年(2000年)9月29日に公布した告示にもとづきます。表示に使う成分の名前は、日本化粧品工業会が作る化粧品の成分表示名称リストを使います。工業会は、リストに載った成分の安全性や配合してよいかを判断しておらず、配合は事業者の責任だとしています。薬用化粧品などの医薬部外品は、第59条により、容器に「医薬部外品」の文字を書き、厚生労働大臣が指定するものは有効成分の名前と分量も書きます。
広告にもルールがあります。第66条第1項は、「何人も」、化粧品などの名前・製造方法・効能・効果・性能について、はっきり書くか、ほのめかすかを問わず、虚偽や誇大な記事を広告したり、記事に書いたり、広めたりしてはならないと決めています。主語が「何人も」なので、メーカーだけでなく、広告を作る会社や媒体、発信する個人も入りえます。医師などが保証したと誤解されるおそれがある記事も、これに当たります(第2項)。
違反には課徴金があります。第75条の5の2により、厚生労働大臣は原則として、違反した期間の対価の合計額の4.5%の課徴金を国に納めるよう命じなければなりません。この命令は、施行令第80条で都道府県知事に任される事務に入っていません。ただし、命じないことができる場合があり(第3項)、課徴金の額が225万円未満なら命じることができません(第4項)。景品表示法の課徴金の命令がある場合や、自分から報告した場合には、額を減らす仕組みもあります(第75条の5の3・第75条の5の4)。
衛生行政報告例では、2025年度に薬事監視で見つかった化粧品の虚偽・誇大広告の違反は67件でした。課徴金を命じた件数ではありません。67件の内訳は、製造業1件、製造販売業15件、販売業18件、業務上取り扱う施設33件で、メーカーではない施設の違反も見つかっています。
化粧品が広告でうたえる効能には範囲があります。日本化粧品工業会の「化粧品等の適正広告ガイドライン」は、厚生労働省の平成23年の通知が定める「化粧品の効能の範囲」を引いています。「頭皮、毛髪を清浄にする」から「乾燥による小ジワを目立たなくする」までの56項目です。最後の小ジワの項目は、決められた試験などで効果を確かめた場合に限られます。化粧品の効能の範囲だけをうたうものは、医薬部外品としては認められません。
ガイドラインは業界団体が作る自主基準で、法律や通知そのものではありません。ただ、商品の説明や広告の文を作るマーケティングと、それを確かめる品質保証・薬事の仕事は、こうしたルールと毎日向き合うことになります。
仕事と変化:職種の名前と、求人で確かめる点
職種の名前は会社ごとに違います。採用ページで確かめられた例を、会社名と区分つきで見ます。店頭で化粧品を売る仕事は「美容部員」と呼ばれることもありますが、これは通称で、各社の正式な職種名は次のように違います。
| 会社 | 採用の区分 | 職種の名前(採用ページの表記の例) |
|---|---|---|
| 資生堂 | 新卒(2027年度入社向け) | 美容職(正社員)、国内工場(製造系・技術系・事務系)、Research & Development(総合職)。総合職の区分はSales、Brand Marketing、Digital Transformation、R&D、Supply Chain、Finance、Quality Assurance、Creative |
| 資生堂 | 契約社員採用(美容スタッフ) | ビューティースタッフ、カンガルースタッフ |
| コーセーのグループ | 会社別の採用区分 | コーセー化粧品販売:営業系総合職、ビューティコンサルタント職、キャスト・サポート職(パート)。ほかに(株)コーセー、コーセーインダストリーズが個別に採用している |
| TOA | 職種の紹介 | 研究開発、品質管理、生産技術・生産、営業・企画、流通、マーケティング、経営企画、総務、システム管理 |
変化も、会社の説明で見ます。どれも1社の説明で、業界全体の傾向とは限りません。資生堂は、2025年の訪日客数は過去最多だったものの、旅行者の消費の仕方の変化や内外価格差の縮小で、日本事業のインバウンド(訪日客の消費)の成長が鈍ったと説明しています。トラベルリテールは、中国と韓国で中国人旅行者の消費が低調で、売上が減りました。花王は、SENSAIが日本でインバウンド需要をとらえたとしています。花王は2026年1〜6月の日本の化粧品市場について、小売店の販売実績は前の年を上回った一方、消費者の購入調査のデータは下回ったと書いています。
会社の形も動いています。ファンケルは上場をやめて親会社の開示の中に入り、日本コルマーはTOAに社名を変えました。同じ会社でも、数字を探す資料や名前が変わることがあります。
求人を見比べるときは、次の点を確かめると、仕事の中身を比べやすくなります。
- 応募先の役割:自社ブランドの製造販売業者か、受託製造の会社か。受託製造なら、営業の相手はブランドを持つ会社になる
- 稼ぐ場所:会社が地域別・ブランド別のどのセグメントの売上が大きいと説明しているか。免税店や海外の比重はどうか
- 品質保証・薬事の仕事:総括製造販売責任者のもとの品質管理や安全管理、届出・承認の手続き、表示と広告の確認のどこを担うか
- 工場の仕事:製造所の許可の区分(製造工程か、包装・表示・保管のみか)と、中身の製造・包装・設備保全のどれを担うか
- 美容職の働き方:正社員か契約社員か、勤務地が得意先の店舗か、配属される売り場はどこか
- 応募先の会社:グループのどの会社に雇われるか。販売会社と本体で、仕事と勤務地が変わる

