「印刷」と書かれた求人には、印刷物の注文を受ける営業、データを整えるDTP、印刷機や製本機を動かす製造の仕事、通知書の発送や事務を預かるBPOの運営、包装材や電子部材の技術開発まで幅があります。同じ印刷会社でも、どの工程を担い、紙の印刷・包装・事務の受託・電子部材のどこで稼いでいる会社なのかで、仕事の相手と担当業務が変わります。
この記事では、日本標準産業分類の「印刷・同関連業」、つまり印刷、製版、製本・印刷物の加工、印刷に関連するサービスの事業を扱います。仕事の工程、統計での数え方、何を刷っているかの構成、設備を使う受託製造の採算と取引のルール、印刷会社の事業の広がり、変化が届く仕事を順に確かめます。
分類の全体地図「メディア・広告・エンタメの業界地図」では、印刷を「受託で作る」役割に置いています。この記事は、その役割の中を深めます。チラシやDMを広告としてどう企画し、どの媒体にお金が流れるかは「広告の業界地図」、出版社・取次・書店の取引は「出版の業界地図」で扱います。
印刷会社が手がける包装・BPO・電子部材は、この記事では印刷会社の事業として扱います。包装・BPO・電子部材そのものの市場や競争は、それぞれの業界地図で扱います。紙そのものの製造は「紙・パルプの業界地図」、フィルムなど包装の素材と成形加工は「プラスチック・ゴム製品の業界地図」、フォトマスクなど電子材料の市場と競争は「半導体材料・電子材料の業界地図」、それが使われる半導体の工程は「半導体の業界地図」、事務の受託を専門とする会社の受託形態と料金は「BPO・コールセンターの業界地図」で扱います。
印刷の仕事は、受注・データ制作・製版・印刷・製本加工の工程に分かれる
印刷は、発注する会社から注文を受けて作る、受託の製造です。1つの印刷物ができるまでには、いくつもの工程があります。
印刷を制作・広告・媒体の流れに位置づけると、製造として担う範囲が見えます。 メディア・広告・エンタメの地図
印刷会社の仕事は、受注から配送までの工程に分かれる
最初は受注です。営業が、発注する企業や出版社、官公庁などから、何を・何部・いつまでに作るかを聞き、見積もりを出します。次に、文字や写真を配置して印刷用のデータを作ります。パソコンでレイアウトを組むこの作業を、DTP(デスクトップパブリッシング)と呼びます。デザインを印刷会社が作ることも、発注する側が用意することもあります。
データができると、製版で印刷に使う版を作ります。版は、インキを紙などに移すための原版です。印刷の工程では、印刷機に版と紙をセットし、色を合わせながら刷ります。刷った物は、製本(本や冊子にとじる)や断裁・折り・箱の形への加工を経て、発注した会社や配送先に届けます。
求人では、工程ごとに呼び方が分かれます。印刷機や製本機を動かし、色や品質を管理する仕事は「オペレーター」、印刷用のデータを作る仕事は「DTPオペレーター」と呼ばれることがあります。工程全体の日程を組む生産管理の仕事もあります。呼び方は会社によって違うため、求人票では仕事の中身で確かめます。
統計では1万2,766事業所。刷り方で数え、用途では数えない
印刷の事業所の数と出荷の大きさは、総務省・経済産業省の2025年経済構造実態調査(製造業事業所調査)で確かめられます。印刷・同関連業は、2025年6月1日時点で1万2,766事業所、従業者23万5,064人です。2024年の1年間の製造品出荷額等(製品の出荷額や加工賃などの合計)は4兆9,780億円でした。個人経営の事業所は含みません。
| 業種(日本標準産業分類) | 事業所数(2025年6月1日) | 製造品出荷額等(2024年) | 中身 |
|---|---|---|---|
| 印刷業 | 10,706 | 4兆5,222億円 | 紙や紙以外のものに刷る。うちオフセット印刷業(紙)8,184事業所・3兆1,503億円、紙以外の印刷業1,717事業所・9,179億円 |
| 製版業 | 659 | 2,785億円 | 印刷に使う版を作る |
| 製本業・印刷物加工業 | 1,324 | 1,671億円 | 製本や、刷った物の加工 |
| 印刷関連サービス業 | 77 | 102億円 | 印刷に関連するサービス |
| 印刷・同関連業の計 | 12,766 | 4兆9,780億円 | 従業者235,064人 |
従業者の約87%(計算値)は印刷業の事業所で働いています。1事業所あたりの従業者は、平均すると約18人(計算値)です。従業者の規模別に見ると、1〜9人の事業所が7,840で、全体の約6割(61.4%、計算値)です。一方、100人以上の事業所は352(2.8%、計算値)ですが、従業者では約3割(32.0%、計算値)、製造品出荷額等では約4割(40.3%、計算値)を占めます(同じ調査の従業者規模別の表)。
この調査は、2025年調査から新しい名簿をもとに集計しています。表に載る過去の年の値とそのまま比べて、事業所や出荷額が増えた・減ったと読むことはできません。
付加価値額(出荷額等から、紙やインキなどの原材料や燃料・電力、外注の費用、設備の減価償却などを差し引いた、事業所が生み出した価値の目安)は2兆1,719億円で、出荷額等の約44%(計算値)です。従業者29人以下の事業所は、減価償却を差し引く前の粗付加価値額で集計されています。
品目別の出荷(2024年)では、印刷物は刷り方で分かれます。オフセット印刷物(紙)が2兆7,305億円、とっ版(凸版。版の出っ張った部分にインキを付ける)印刷物(紙)が1,991億円、おう版(凹版。版のへこんだ部分にインキをためる)印刷物(紙)が2,247億円、紙以外のものに刷った印刷物が7,276億円です(同じ調査の品目別統計表)。品目別の出荷は品目の出荷額だけを数えるため、上の表の製造品出荷額等とは定義が違います。
この統計の品目には、商業・出版・包装といった用途の区分がありません。何に使う印刷物が多いかは、次の章の別の統計で見ます。
製版の品目には、半導体の回路を焼き付けるための原版であるフォトマスクも入っています。2024年の出荷は985億円で、作っている事業所は40です。印刷で版を作る技術が、電子部材にもつながっています。
何を刷っているか:出版の比率が下がり、包装の比率が上がった
用途別の構成は、経済産業省の生産動態統計を日本印刷産業連合会が整理した値で見ます(印刷産業Annually Report 2026年度版)。この統計の対象は、従業者100人以上の事業所です。従業者100人未満の事業所は含みません。前の章の経済構造実態調査では、100人以上の事業所は数で約3%、製造品出荷額等で約4割にあたります。調査が違うため目安ですが、図の構成比は、出荷額等の約4割を占める規模の大きな事業所の範囲の話です。
出版の比率が下がり、包装の比率が上がった
2025年の印刷の生産金額の品種別の構成は、商業34.4%、包装27.3%、事務用13.7%、出版13.1%、建装材4.6%、証券1.6%、その他5.2%です。2009年は、出版28.5%、商業32.9%、包装15.4%、事務用13.4%、建装材3.1%、証券1.5%、その他5.2%でした。従業者100人以上の事業所が刷るものの中で、出版の比率は半分以下になり、包装の比率は約1.8倍(計算値)になっています。事務用は13.4%から13.7%で、ほぼ変わっていません。
ここで比べているのは各年の構成比です。それぞれの金額がどれだけ増えたか・減ったかを示すものではありません。また、この統計の生産金額は、販売価格から企画・編集費、製版費、製本・加工費、紙などの印刷媒体費、運賃などを除いた額として整理されています。印刷物の代金の全体ではなく、主に刷る工程の金額です。
商業印刷は、チラシ・カタログ・ポスターなど、企業が販売や宣伝に使う印刷物です。電通の「日本の広告費」にも折込チラシやDMの項目がありますが、数えているのは折込料や郵便料などで、商業印刷の市場とは定義が違います。チラシ・DMを広告としてどう使うかは「広告の業界地図」で扱います。
販促物の印刷と広告の企画・運用を分けると、発注者や成果物の違いを確認できます。 広告業界の地図
出版印刷は、本や雑誌を刷る仕事です。出版社から受ける注文の一種として、この記事で扱います。出版社・取次・書店の取引は「出版の業界地図」で扱います。
設備を回す受託製造の採算と、取引のルール
印刷は、印刷機や製本機などの設備を使う受託製造です。注文が減って設備の稼働が下がると、同じ設備と人で刷る量が減り、1件あたりの設備の費用が重くなります。これは設備を使う製造業に共通する性質です。
会社の説明では、事業の組み替えも見えます。TOPPANホールディングスは、出版・商業印刷が減少する中で、出版印刷事業をグループ会社のTOPPANクロレに集約して収益性を改善し、伝票や帳票などのビジネスフォームの拠点再編などの構造改革を進めていると説明しています(2026年3月期決算短信)。大日本印刷(DNP)は、販促などのマーケティング関連が、紙媒体の市場縮小で前年を下回ったとしています(2026年3月期決算短信)。
印刷物の代金には、刷る工程のほかに、企画・編集、データ制作、製版、製本・加工、紙、運送の費用が入ります。営業が見積もりで、どの工程を自社で担い、どこを外に任せるかを決めると、会社に残る金額も変わります。
印刷会社の取引には、取適法(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律)がかかることがあります。2026年1月1日に施行された改正で、下請法から名前が変わった法律です。印刷そのものを他社に任せる取引は製造委託に、デザインや版下などのデータ作りを任せる取引は情報成果物作成委託になりえます。刷った物を届ける運送を他社に任せる取引は、特定運送委託(第2条第5項)になりえます。法律の「情報成果物」には、文字・図形・記号などで構成されるものが入ります(第2条第7項)。
対象になるかどうかは、取引の中身(委託する側が売る物や請け負った仕事のための委託かなど、第2条第1項・第3項)と、委託する側と受ける側の資本金や従業員数の組み合わせ(第2条第8項・第9項)で決まります。たとえば、自社の販促物を印刷会社に注文するだけの会社は、製造委託に当たらない場合があります。印刷会社は、発注する企業から仕事を受ける立場にも、製本や加工を他社に任せる立場にもなります。営業や生産管理の仕事では、自社がどちらの立場の取引なのかを確かめることになります。
総合印刷会社は、BPO・セキュア・包装・電子部材に広がっている
印刷から始まり、情報の処理や包装、電子部材まで手がける会社は、業界で「総合印刷会社」と呼ばれます。法令の区分ではなく、業界の呼び方です。ここでは、決算短信のセグメント(会社が開示する事業の区分)で、1社ずつ稼ぎ方を見ます。会社どうしの大きさは比べていません。
印刷会社の稼ぎ方は、事業の区分ごとに見ると会社で違う
TOPPANホールディングスは、2026年3月期の売上高が1兆8,050億円、営業利益が671億円でした。事業は3つの分野に分かれます。
- 情報コミュニケーション(売上高9,232億円・営業利益450億円):政府系IDなどのセキュアビジネスやマーケティングのデジタル化、金融・行政のBPO(事務の受託)、データから通知書などを刷るデータ・プリント・サービス、出版・商業印刷やビジネスフォーム
- 生活・産業(売上高7,230億円・営業利益330億円):環境に配慮した包材や透明バリアフィルムなどのパッケージ、化粧シートなどの建装材
- エレクトロニクス(売上高1,863億円・営業利益336億円):半導体のチップを載せるFC-BGA基板などの半導体関連、ディスプレイ関連
生活・産業の売上高は前の期より31.4%増えましたが、これには海外の軟包装事業を買収した効果が含まれます。エレクトロニクスの売上高は34.2%減りましたが、これには、フォトマスクの会社(テクセンドフォトマスク)などを、連結子会社から持分法適用関連会社(出資先として利益の持ち分だけを取り込む会社)に移した影響が含まれます。どちらの増減も、紙の印刷の減少と直接結びつけて読むことはできません。
DNPは、2026年3月期の売上高が1兆5,125億円でした。部門は3つです。
- スマートコミュニケーション(売上高7,503億円・営業利益400億円):写真プリント用の部材、ICカードやBPOの大型案件などの情報セキュア、販促などのマーケティング、出版関連
- ライフ&ヘルスケア(売上高5,123億円・営業利益372億円):紙カップやチューブ容器などの包装、無菌充填システム、リチウムイオン電池用のバッテリーパウチ、太陽電池の封止材、加飾フィルム、メディカル、飲料
- エレクトロニクス(売上高2,518億円・営業利益507億円):有機ELの製造に使うメタルマスク、ディスプレイ用の光学フィルム、フォトマスクなどの半導体関連
DNPでは、エレクトロニクスは売上高が3部門で最も小さい一方、営業利益は最も大きくなっています。
総合印刷会社の求人では、同じ会社でも、紙の印刷・BPO・包装・電子部材のどの事業の募集かで、仕事が大きく変わります。BPOの受託形態と料金は「BPO・コールセンターの業界地図」で、フォトマスクやメタルマスクなど電子材料の市場は「半導体材料・電子材料の業界地図」で扱います。
総合印刷会社とは型が違う例として、エレクトロニクスを独立した区分にしていない共同印刷を見ます。報告セグメントは3つの部門で、ほかに不動産・物流などの「その他」があります(2026年3月期決算短信)。売上高は982億円でした。
- 情報コミュニケーション(雑誌・書籍・ポスター・カレンダー・広告宣伝媒体など):売上高323億円・営業損失2億円。出版印刷と、カタログ・情報誌などの一般商業印刷が減った
- 情報セキュリティ(ビジネスフォーム・証券類・カード・データプリント・BPO):売上高305億円・営業利益11億円
- 生活・産業資材(紙器・軟包装・チューブ・ブローボトルのほか、金属印刷・建材用品印刷、電子機器部品・高機能材料など):売上高332億円・営業利益15億円
共同印刷では、3部門の売上高はほぼ同じ大きさですが、出版・商業の部門は営業損失で、報告セグメントの利益は生活・産業資材と情報セキュリティの部門から出ています。
紙需要の減少と事業の広がりで変わる仕事
印刷会社の仕事は、どの工程を担うかと、どの事業の募集かで変わります。総合印刷会社には、紙の印刷の工程を担う仕事に加えて、包装材の開発、BPOの運営、電子部材の技術開発の仕事があります。
| 仕事 | 主な相手 | 主な仕事の例 | 変化との関係 |
|---|---|---|---|
| 営業・企画 | 発注する企業、出版社、官公庁 | 印刷物の受注と見積もり、販促や事務の受託の提案 | 紙の印刷物だけでなく、包装やBPOを合わせて提案する |
| デザイン・DTP | 営業、発注する企業 | 印刷用のデータ作り、レイアウト、色の確認 | 紙の印刷物に加え、マーケティングのデジタル化の仕事を持つ会社もある(TOPPANのデジタルビジネスなど) |
| 製造(オペレーター) | 印刷機・製本機、生産管理 | 印刷機・製本機の操作、色と品質の管理、設備の保守 | TOPPANのように拠点の再編を進める会社では、配属先の工場が変わることもある |
| BPOの運営 | 金融機関・行政などの発注元 | 預かった事務の手順づくり、作業する人とシステムの管理 | 事務の受託の拡大 |
| 技術開発 | 包装材や電子部材の顧客 | 包装材・フィルム・電子部材の開発と量産 | 包装と電子部材の事業の拡大 |
職種の呼び方は会社ごとに違います。たとえばTOPPANは、新卒の職種として、IT技術職、ものつくり技術職、営業企画職、デザイン職、コーポレートスタッフ職、SCMスタッフ職の6つを挙げ、採用コースをジョブコース・フィールドコース・オープンコースの3つに分けています(TOPPANグループ 新卒採用情報)。ほかの会社の職種の呼び方と中身は、応募先の募集要項で確かめます。
求人票では、次の3点を確かめます。
- どの事業の募集か:紙の印刷(出版・商業・ビジネスフォーム)か、包装か、BPO・セキュアか、電子部材か。総合印刷会社では、事業によって仕事も働く場所も変わる
- どの工程の仕事か:受注・データ制作・製版・印刷・製本加工・配送のどこを担うのか。工程をまとめて受ける会社か、製本や加工など一つの工程を専門にする会社か
- 取引の位置:発注する企業から直接受けるのか、ほかの印刷会社から受けるのか。営業や生産管理では、取適法の対象になる取引かどうかも関わる
包装の素材やフィルムの製造は「プラスチック・ゴム製品の業界地図」、紙の製造は「紙・パルプの業界地図」、半導体の工程で印刷会社の部材がどこに使われるかは「半導体の業界地図」で確かめられます。


