自動車業界と聞くと、まず完成車メーカーの名前が浮かびます。ただし、メーカーの売上や販売台数を並べるだけでは、部品メーカーやディーラーで働く人が誰からお金を受け取るのかは分かりません。米国の関税が、どの部署の仕事を変えるのかも見えてきません。
この記事では、車が作られて売られ、使われてから直されるまでの流れを、会社の役割とお金の動きで追います。次に国内の生産・販売・部品出荷の規模を定義ごとに確かめ、完成車メーカーを製品・地域・資本関係で比べます。最後に、最近の変化が届く工程と、求人票で確かめることをまとめます。
部品の種類ごとの会社比較や、車検・整備工場の詳しい仕組みは、それぞれの詳細記事に任せます。ここでは完成車を中心にした取引の関係を扱います。
自動車は「作る・売る・直す」の流れとお金で読む
1台の車には、部品メーカー、完成車メーカー、販売会社、整備事業者が順に関わります。お金は逆向きに流れます。購入者が払った車両代は、販売会社とメーカーを通って部品メーカーへ届きます。車を買った後に払う整備代は、販売会社の工場や整備工場が受け取ります。整備事業者が補修部品を仕入れる支払いは、これとは別の取引です。
車は部品から整備まで4種類の会社を通る。車両代は逆向きに流れ、整備代は整備事業者が受け取る
部品の流れは、部品メーカー同士の取引から始まります。日本自動車部品工業会(JAPIA)の会員のうち回答した293社の2024年度の部品出荷額は、20兆7,070億円でした。納める先で分けると、56.1%が国内の自動車メーカーの組立工場向け、11.4%が海外の組立向けの直接輸出、13.2%が国内の部品メーカー向けです。部品メーカー同士の取引が1割を超えることから、部品が何段階かの会社を経て完成車メーカーへ届くことが分かります。用途で分けた別の集計では、補修用が8.2%です。この割合には二輪向けも含まれ、補修向け出荷額の51.2%を二輪の海外補修向けが占めます。四輪の補修用は総出荷額の4.0%です。
完成車メーカーから先は、販売会社が担います。国土交通省の資料では、メーカーまたは国内の一手卸売会社と特約販売店契約を結んだ会社を「ディーラー」と定義しています。メーカーが販売会社に車を卸し、販売会社が購入者に売る形です。卸値や販売会社の利益の配分は、公開資料では確認できません。
車の代金をローンやリースで払う購入者には、メーカー系の金融会社がお金を貸します。トヨタの2026年3月期の決算では、金融事業の営業利益が8,517億円ありました。自動車事業の2兆7,770億円と比べても小さくありません。メーカーの収益は、車を作って卸す取引だけでは決まらないことが分かります。
4種類の会社は、顧客も対価の受け取り方も違います。次の表は、公開資料で確かめられる範囲で、会社群ごとの顧客、主な対価、競合と補完の相手、自社で担う工程を並べたものです。
| 会社群 | 主な顧客 | 主な対価 | 競合と補完の相手 | 自社で担う工程 |
|---|---|---|---|---|
| 完成車メーカー | 販売会社(卸)。金融子会社はローン・リースの利用者 | 車両の卸売代金、販売金融の収入 | 競合は他の完成車メーカー。部品メーカーと販売会社が補完 | 開発、調達、組立、型式指定の取得 |
| 部品メーカー | 完成車メーカー、他の部品メーカー、補修用の流通 | 部品代 | 競合は同じ部品を作る会社。直接取引する会員は平均7.09社のメーカーと取引 | 部品の開発・試作・量産 |
| 販売会社(ディーラー) | 個人・法人の購入者、車の使用者 | 車両代、整備代 | 競合は同じ地域の販売会社と整備工場。メーカーとは特約販売店契約で結びつく | 販売、納車、自社工場での整備 |
| 整備事業者(専業・兼業) | 車の使用者 | 整備代 | 競合はディーラーの工場と他の整備工場 | 車検・点検・修理 |
ディーラーは販売と整備の両方で対価を受け取るため、整備では専業・兼業の工場と同じ顧客を取り合います。この二層の構造は、後の節で数字とあわせて確かめます。
国内の規模は台数と金額を定義ごとに読む
自動車業界の規模を一つの数字で示すことはできません。台数と金額、暦年と年度、国内と海外が混ざるためです。次の図の数字は、それぞれ定義が違うので足し合わせません。
国内の規模を示す6つの数字は、単位と範囲が違うので足し合わせない
日本自動車工業会(JAMA)の統計によると、2025年の国内生産は841万台、国内の新車販売は457万台でした。新車販売の内訳は、登録車290万台と軽自動車167万台です。輸出は417万台ですが、2017年12月以降は会員1社の分を含みません。
日系メーカーが海外の工場で作った車は、2025年に1,636万台ありました。国内生産のおよそ2倍です。そのため、国内の工場で働く人の仕事と、海外の工場を支える本社の仕事は、別のものとして考える必要があります。
働く人の数でも、部品の比重が分かります。JAMAの推計では、自動車の製造部門で働く87.7万人のうち、完成車(二輪を含む)は20.8万人、部品は64.4万人です。販売・整備は100.9万人で、そのうち整備が22.0万人です。JAMAが示す「自動車関連就業人口557万人」には運輸の279.3万人も含まれるので、自動車会社で働く人の数とは読み替えません。
完成車メーカーは製品・地域・資本関係で分かれる
国内の完成車メーカーは、作る車の種類、売る地域、資本関係の3点で位置が分かれます。同じ「国内メーカー」でも、関税や為替の影響を受ける場所と、開発や部品調達を一緒に行う相手が違います。
完成車メーカーを主な製品で並べ、確かめた資本関係を印で示す
トラック・バス◆Daimler Truckとトヨタがそれぞれ25%(2026年8月の発表)
トラックピックアップ海外が連結販売の約86%
製品では、まず登録車と軽自動車と商用車に分かれます。軽自動車は国内の規格で、スズキとダイハツが中心です。スズキは2025年度の軽自動車販売で1位、シェア33.0%でした。ダイハツは2016年8月からトヨタの完全子会社です。
地域では、販売の中心が会社ごとに大きく違います。次の表には、国内に本社を置いて四輪車を量産し、2026年3月期の通期決算を公表している8社を載せました。ダイハツは単独の決算資料を確認できず、ARCHIONは発足したばかりのため外しています。台数は卸か小売か、グループ会社を含むかが会社ごとに違うため、順位には使えません。会社名のリンク先は、数字を確かめた各社の決算資料です。
| 会社 | 主な製品 | 販売の中心 | 売上(2026年3月期・会計基準) | 台数(各社の定義) |
|---|---|---|---|---|
| トヨタ自動車 | 登録車・商用車。軽はダイハツ | 日本は連結販売の約2割 | 営業収益50兆6,849億円(IFRS) | 連結販売959.5万台(日野の10.4万台を含む) |
| 本田技研工業 | 登録車・軽・二輪 | 北米(連結271.1万台のうち160.5万台) | 売上収益21兆7,966億円(IFRS) | 四輪の連結売上台数271.1万台 |
| 日産自動車 | 登録車・軽・小型商用車 | 世界各地 | 売上高12兆79億円(2026年度第1四半期の参考資料にある前年度実績) | 小売の台数を公表(中国・台湾は1〜12月の集計) |
| スズキ | 軽・小型車・二輪 | インド(世界販売332.0万台のうち186.2万台) | 売上収益6兆2,929億円(IFRS) | 四輪世界販売332.0万台 |
| マツダ | 登録車 | 米国(グローバル122.3万台のうち39.5万台) | 売上高4兆9,181億円(日本基準) | グローバル販売122.3万台 |
| SUBARU | 登録車 | 海外(連結89.6万台のうち79.3万台) | 売上収益4兆7,850億円(IFRS) | 連結販売89.6万台 |
| 三菱自動車工業 | 登録車・軽・ピックアップ | 世界各地 | 売上高2兆8,965億円(日本基準) | グローバル販売79.7万台 |
| いすゞ自動車 | トラック・ピックアップ | 海外(連結56.6万台のうち48.4万台) | 売上収益3兆4,790億円(IFRS) | 連結販売56.6万台 |
トヨタも日本は連結販売の約2割で、どの会社も海外の販売が大きな割合を占めます。スズキはインド、ホンダとマツダは北米・米国の比重が大きく、SUBARUは海外が約9割です。ただし、販売地域の比率だけでは、米国の関税が利益にどれだけ響くかは分かりません。米国で売る車をどの国の工場で作るか、部品の原産地、価格への上乗せの仕方で変わるためです。影響額は、各社が決算資料で開示した数字で確かめます。
資本関係では、トヨタを中心とするまとまりがあります。ダイハツは完全子会社で、SUBARUの株式の21.46%をトヨタが持っています。日野は2026年3月までトヨタの連結子会社でしたが、ARCHIONへ移りました。ここに挙げたのは、この記事で一次資料を確かめた関係だけです。ほかの会社の間にも資本関係はあります。また、資本関係があることと、開発の分担や車の相互供給(OEM)を行うことは、別々に確かめる必要があります。応募先の親会社と主要株主は、決算資料や有価証券報告書で確かめられます。
部品メーカーは複数の完成車メーカーと取引する
部品メーカーは、特定のメーカーの系列だけで仕事をしているとは限りません。JAPIAの調査では、完成車メーカーと直接取引する会員は、平均で7.09社のメーカーと取引しています。
部品メーカーの資本関係も動いています。Astemoは日立とホンダが40%ずつ持っていましたが、2026年10月1日にホンダが日立から21%相当の株式を取得し、ホンダが61.0%を持つ連結子会社になりました。豊田自動織機は、2026年6月1日に上場を廃止しました。
部品メーカーで働く人は、自動車の製造部門で働く人の約4分の3を占めます。部品メーカーの営業や技術者は、複数の完成車メーカーの開発日程と品質基準に合わせて、仕様書・見積・試作品をそろえます。
販売・整備はメーカー系と独立系の二層になっている
販売会社には、メーカーが自ら持つ会社と、地域の資本や上場会社が営む会社があります。トヨタは2018年、東京の販売会社4社を2019年4月にトヨタが100%出資する1社へ統合すると発表しました。現在、トヨタモビリティ東京が運営する店舗の一例が虎ノ門店です。都内には、ほかの販売会社が運営するトヨタの店舗もあります。一方で、上場する販売会社グループもあります。VTホールディングスの2026年3月期の売上収益は3,887億円でした。
整備では、事業場の数と売上の大きさが逆になります。日本自動車整備振興会連合会(日整連)の2025年度の実態調査によると、2025年6月末の整備事業場9万2,251のうち、整備を専業とする事業場が5万6,834(約62%)、ディーラーの事業場は1万6,176(約18%)です。一方、総整備売上高6兆6,592億円のうち、ディーラーが3兆493億円(45.8%)、専業が2兆5,488億円(38.3%)でした。ディーラーは事業場の2割弱で、整備売上の4割強を占めます。この調査は事業場の2割を対象にしたもの(有効回答率40%)で、売上は各事業場の2025年6月に最も近い決算期、つまり主に2024年度の実績です。
ディーラーの整備は、自社が売ったメーカーの車を中心に扱います。新車販売、保険、ローンと同じ窓口で顧客とつながっている点が、専業の工場との違いです。
関税・認証・電動化・再編が届く工程を読む
ここ数年の変化は、業界全体に一様に効くわけではありません。次の表は、変化ごとに、それがどの工程のどの成果物を変えるかを整理したものです。
4つの変化が届く工程と成果物
米国は2025年9月16日以降に通関する日本製の自動車と部品について、通常の関税と追加関税の合計を15%としました(通常の税率が15%未満の品目)。影響額を開示した例では、トヨタは2026年3月期の営業利益に対し、関税の影響を約1.4兆円の減益要因として示しています。マツダは関税負担の大きいメキシコ製の車の生産を抑え、いすゞは160億円の減益要因を挙げました。こうした会社では、販売価格をどうするか、どの工場から米国へ出すか、部品の原産地をどう管理するかが、販売・生産管理・調達の仕事に関わります。
電動化について、政府は乗用車の新車販売を2035年までに電動車100%にする目標を掲げています。ここでいう電動車にはハイブリッド車も含まれます。トヨタとレクサスの2026年3月期の小売のうち、電動車は48.1%でした。一方、ホンダは2026年3月期に四輪事業で1兆4,111億円の営業損失を計上し、全社でも営業損失となりました。どの技術にいつ投資するかの判断は、会社ごとに分かれています。
車の機能をソフトウェアで更新できるようにする「ソフトウェア定義車両(SDV)」も進んでいます。経済産業省と国土交通省は、2030年にSDVの世界販売で日系シェア3割を目標に掲げ、ソフトウェア人材の確保を喫緊の課題としています。部品メーカーでも、デンソーの新卒採用には「モビリティソフトエンジニア」の区分があり、ソフトウェアの技術者を職種として募集しています。
求人票では会社の位置・担当工程・成果物を確認する
同じ「自動車業界の営業職」でも、完成車メーカー、部品メーカー、販売会社では、相手もお金の受け取り方も違います。次の表は、会社の位置ごとに、仕事の相手と成果物を整理したものです。
| 会社の位置 | 主な相手 | 職種の例 | 成果物の例 |
|---|---|---|---|
| 完成車メーカー | 販売会社、部品メーカー、認証の当局 | 事務職、技術職、技能職(トヨタの2022年度入社の区分) | 車両の仕様、試験の記録、生産計画、販売計画 |
| 部品メーカー | 完成車メーカー、他の部品メーカー | ソフトウェア、電動化、半導体、生産技術、技術系の営業(デンソーの新卒区分) | 部品の仕様書、見積、試作品、量産の品質記録 |
| 販売会社 | 購入者、メーカー、金融会社 | 新車・中古車の営業、整備、保険・ローンの手続き | 見積、契約、納車の手配、整備の記録 |
| 整備事業者 | 車の使用者、販売会社 | 整備士、受付 | 点検・整備の記録、見積 |
求人票では、次の4点を確かめます。
- 会社の位置:完成車、部品、販売、整備のどれか。親会社や主要株主はどこか
- 主な相手:どのメーカー、どの地域の顧客と取引するか。複数のメーカーと取引するか
- 担当工程:開発、調達、生産、品質、販売、整備のどこを担うか
- 変化との関係:関税、認証、電動化、ソフトウェアのうち、担当業務に関わるものはどれか
この4点を求人票で埋めておくと、面接で仕事内容を具体的に質問しやすくなります。
部品メーカーの取引、品目と電動化による変化は、自動車部品の業界地図で確かめられます。
購入後の車を支える整備工場の収入、車検と整備士の仕事は、自動車整備の業界地図で確かめられます。


