「自動車・輸送機器」と書かれた求人には、車の部品を毎日大量に作る工場の生産技術、地下鉄や新幹線の車両の設計、造船所での船の建造の工程管理、航空機のエンジンの部品づくりや修理、ロケットの開発まで、幅があります。どれも乗り物を作る仕事ですが、1年に作る数も、買う相手も、守る法律も違います。
この分類の特徴は2つあります。1つは、国の統計で見た大きさの約9割が自動車で、鉄道車両・船・航空機・宇宙などは合わせても1割強であることです。もう1つは、重工と呼ばれる会社が、1社で船・航空機・鉄道車両・宇宙などいくつもの分野にまたがることです。この記事では、まず「どう作るか」と「誰が買うか」の2つの軸で分野を見分け、次に大きさの物差し、稼ぎ方、重工各社の事業の区分、法律、変化、仕事と求人票の確認点を順に見ます。
扱う範囲は、自動車・輸送機器の分野の全体像です。完成車・部品・販売・整備のつながりと完成車メーカーの比較は、「自動車業界の地図」で扱っており、この記事では量産の側の代表として要約します。部品のTier構造・品目・タイヤは「自動車部品の業界地図」、二輪のメーカーと販売は「二輪車(バイク)の業界地図」、車両メーカーと鉄道会社の関係は「鉄道車両の業界地図」、造船所・舶用メーカー・海運会社の関係は「造船・舶用工業の業界地図」、機体・エンジンの分担と国際共同開発は「航空機産業の業界地図」、ロケット・衛星・宇宙利用は「宇宙産業の業界地図」で扱います。
隣の分類との境目もあります。次の分野は、それぞれの地図で扱います。
- 輸送機器を買って使う側(鉄道会社・海運会社・航空会社など):「運輸・物流の業界地図」「鉄道の業界地図」「海運の業界地図」「航空の業界地図」
- フォークリフト:「マテハンの業界地図」
- 建設用のトラクタなどの建設機械:「建設機械の業界地図」
- ロボット:「FA・産業用ロボットの業界地図」
- 車に載る電装品や半導体:「電機・電子部品・半導体の業界地図」
- 電池:「電池・蓄電池の業界地図」
- 重工の発電の事業:「重電・電力機器の業界地図」
- 重工のプラントの事業:「プラントエンジニアリングの業界地図」
- 材料の鋼材:「鉄鋼の業界地図」
- プレスや鋳造・鍛造:「金属加工の業界地図」
- 車検と整備工場:「自動車整備の業界地図」
この記事は、次にどの地図を読むかを決めるための全体図です。
自動車・輸送機器は「どう作るか」と「誰が買うか」で読む
この記事では、作り方を2つの言葉で分けます。量産(見込み生産)は、需要を見込んで同じ型を大量に作り、販売会社などを通して売る作り方です。受注生産は、鉄道会社・船主・防衛省などの発注者と契約してから設計・製造する作り方で、会社は受注高や手持ち工事を開示します。どちらも記事の整理の言葉で、法律や統計の用語ではありません。
根拠になる記述は資料にあります。川崎重工業は、二輪などのパワースポーツ&エンジンの区分は「主として見込み生産」のため、受注高を売上と同じ額にしていると決算短信に書いています(川崎重工業 2026年3月期 決算短信)。国土交通省の海事レポートは、船は1隻ごとに設計の仕様が違い、製造ラインによる大量生産ができないと説明しています(国土交通省 海事レポート2026 第3章)。鉄道車両の国の統計は、受注と生産を別々に集計しています。
自動車・輸送機器は、どの分野が、どう作って、誰に売るのか。次にどの地図を読むか
量産の側には、自動車・二輪・自動車部品があります。完成車メーカーは同じ型の車を大量に作り、販売会社を通して個人や法人に届けます。部品メーカーの買い手は、完成車メーカーと、ほかの部品メーカーです。二輪は、統計では「自動車製造業(二輪自動車を含む)」に入り、単独の値はありません。本田技研工業とスズキは四輪と二輪を1社で持ち、川崎重工業はパワースポーツ&エンジンの区分で二輪などを扱います。日本自動車工業会によると、日系メーカーの二輪の海外生産は2025年に2,867万台でした(日本自動車工業会 The Motor Industry of Japan 2026)。二輪の会社と販売店は「二輪車(バイク)の業界地図」で扱います。
受注生産の側は、買い手で2つに分かれます。鉄道車両と船の主な買い手は、運輸の事業者です。鉄道車両の統計は、新しく造る車両をJR向け・民鉄向け・輸出に分けて集計しています。川崎重工業の車両の区分は、ニューヨーク市交通局向けの新型地下鉄電車などを受注しています。船の買い手は船主や海運会社ですが、海事レポートによると、艦艇や巡視船は国内の造船業がすべて建造・修繕しています。
航空機の主な買い手は、防衛省と、民間航空機の機体の一部を分担して作らせる機体メーカーなどです。川崎重工業の航空宇宙システムの売上は、防衛省向けや、民間航空機の機体の一部を分担して作る「分担製造品」などで増えました。宇宙では、ロケットや人工衛星は、統計では「他に分類されない輸送用機械器具」に入ります。
受注生産の4つの分野(図で左に太い線のあるマス)には、重工の会社が事業をまたいで関わります。会社の名前ではなく、配属される事業がどの分野にあるかで、次に読む地図を決めます。重工各社の区分は4つ目の章で見ます。
統計の「輸送用機械器具」の約9割は自動車、分野の物差しは数え方が違う
国の統計で大きさを見るときは、まず範囲を確かめます。日本標準産業分類の中分類31「輸送用機械器具製造業」には、自動車・同附属品、鉄道車両、船舶と舶用機関、航空機、フォークリフトなどの産業用運搬車両、自転車などのその他が入ります。この記事で「輸送用機械器具」と書くときは、この中分類31のことです。二輪は自動車製造業に、ロケット・人工衛星・宇宙船は「他に分類されない輸送用機械器具」に入ります。
一方、車や航空機に使う部品でも、中分類31の外にあるものがあります。タイヤはゴム製品、自動車用ガラスは窯業・土石製品、エンジンまわりの電装品・ヘッドライト・蓄電池は電気機械器具、航空計器は業務用機械器具、自動車用のプレス加工品は金属製品に分類されます。航空機の整備業と舶用機関の修理業は機械修理業、鉄道会社が自社の車両を直す事業所は運輸業です。
分野の大きさは、どの物差しで測り、物差しごとに何が違うのか
各行の上の棒が出荷額等、下の棒が従業者。出荷額等は事業所の間の取引を重ねて数えるため、市場規模ではない。2024年の実績から調べる範囲が新しくなったため、前の年とは比べない。
| 分野の物差し(出すところ) | 何を、どの範囲で数えるか | 時点 | 値 |
|---|---|---|---|
| 造船業・舶用工業(国土交通省「海事レポート2026」) | 「産業規模」・従業員・事業者数。産業規模の定義は資料に書かれていない造船業は年度、舶用工業は暦年 | 項目ごとに違う(従業員2026年・2025年、産業規模2024年度・2024年、事業者数2025年) | 造船業:8.2万人(外国人の技能者を含む)・3.1兆円・約900事業者 舶用工業:3.5万人・1.1兆円・約700事業者 |
| 航空機工業の生産額(日本航空宇宙工業会) | 生産動態統計(航空機)の対象事業所の生産額。宇宙機器は別の調査 | 2025年(暦年) | 約2.44兆円・従業員2万7,681人 製造82.5%・修理17.5%/エンジン52.9%・機体40.5%・機器6.7%/防衛29.7%・民間70.3% |
| 鉄道車両の生産(国土交通省「鉄道車両等生産動態統計年報」) | 新造・改造・修理の両数と金額。消費税を含む工場渡しの価格(輸出はFOB価格) | 2025年度 | 新造1,423両・1,890億円(国内1,645億円〈JR向け813億円・民鉄向け832億円〉・輸出245億円) 修理162億円・改造101億円 |
| 宇宙機器(日本航空宇宙工業会「宇宙機器産業実態調査」) | 会員企業を主とする企業へのアンケートの売上の合計。打上げ輸送サービスを含み、衛星データの利用などは含まない | 2024年度 | 売上高3,840億円 |
経済産業省の経済構造実態調査によると、2024年の輸送用機械器具の製造品出荷額等は約82.2兆円、付加価値額は約22.4兆円です。事業所は1万976、従業者は2025年6月1日時点で105万5,683人です。製造業全体に占める割合は、出荷額等で21.5%、従業者で13.9%、付加価値額で19.1%です(計算値。経済産業省「2025年経済構造実態調査 製造業事業所調査」第1表)。
このうち、自動車・同附属品は出荷額等が約72.9兆円、従業者が87万5,637人で、輸送用機械器具の出荷額等の88.7%、従業者の82.9%を占めます(計算値)。日本自動車工業会も、自動車製造業の出荷額として同じ統計の72.9兆円を使っています。自動車の中では、部品(自動車部分品・附属品)が出荷額等で約41.7兆円・57.3%、従業者で64万3,455人・73.5%と、完成車(約30.1兆円・20万7,722人)より大きな割合です(計算値)。
自動車以外を合わせると、出荷額等は約9.3兆円、従業者は約18.0万人です(計算値)。内訳は、船舶製造・修理業と舶用機関が約4.0兆円・7万1,849人、航空機・同附属品が約3.0兆円・4万8,107人、鉄道車両・同部分品が約8,594億円・2万9,275人です。航空機の中では、航空機用原動機(エンジン)が約1.8兆円で、機体を作る航空機製造業の約3,128億円より大きくなっています。
出荷額等は、事業所が出荷した額で、事業所の間の取引を重ねて数えます。部品の工場が出荷した部品と、それを組み込んだ完成車の出荷が、両方とも数えられます。そのため、約82.2兆円や約72.9兆円は「市場規模」でも「付加価値」でもありません。また、この調査は2024年の実績から調べる事業所の範囲が新しくなったため、この記事では前の年との増減を書いていません。
分野ごとの業界の物差しも見ておきます。海事レポートによると、造船業は従業員8.2万人(2026年、外国人の技能者を含む)・産業規模3.1兆円(2024年度)・約900事業者、舶用工業は従業員3.5万人(2025年)・産業規模1.1兆円(2024年)・約700事業者です。日本航空宇宙工業会(SJAC)によると、2025年の航空機工業の生産額は約2.44兆円で、従業員は2万7,681人です。生産額のうち製造が82.5%・修理が17.5%、品目ではエンジンが52.9%・機体が40.5%・機器が6.7%、需要では防衛が29.7%・民間が70.3%です(SJAC「日本の航空機工業」データ集 令和8年8月)。
国土交通省の鉄道車両等生産動態統計年報によると、2025年度に新しく造った鉄道車両は1,423両・1,890億円で、国内向けが1,645億円(JR向け813億円・民鉄向け832億円)、輸出が245億円でした。このほかに修理が162億円、改造が101億円あります。金額は消費税を含む工場渡しの価格です(国土交通省「鉄道車両等生産動態統計年報 2025年度」)。宇宙は、SJACが会員企業を主な対象にしたアンケートで、2024年度の宇宙機器関連企業の売上高を3,840億円とまとめています(SJAC「令和7年度 宇宙機器産業実態調査報告書」概要)。
これらの物差しは、数えるもの・範囲・年がそれぞれ違います。海事レポートの「産業規模」と統計の船舶の出荷額等、SJACの生産額と統計の航空機の出荷額等は、並べて差を出したり、足して「輸送機器の市場規模」としたりできません。分野の大きさは、1つの物差しの中で比べます。
稼ぎ方:自動車は量産と部品の段、受注生産は1件ごとの契約と修理
自動車の稼ぎ方は、「自動車業界の地図」で詳しく扱っています。要点は、車が作られ、販売会社を通して売られ、使われてから直されるまでの流れに、部品メーカー・完成車メーカー・販売会社・整備事業者が順に関わることです。部品は何段階かの会社を経て完成車メーカーに届きます。日本自動車部品工業会の2024年度の調査では、回答した会員の部品出荷額のうち13.2%が国内の部品メーカー向けでした(日本自動車部品工業会「2024年度 自動車部品出荷動向調査結果」)。部品メーカーは複数の完成車メーカーと取引することが多く、量産では、同じ型をどれだけの数、決めた品質と原価で作り続けられるかが売上と利益に響きます。完成車メーカーの比較や国内の生産・販売の台数は「自動車業界の地図」、部品の段ごとの会社は「自動車部品の業界地図」で確かめられます。
量産の代表である完成車・部品・販売・整備のつながりを詳しく見る場合は、自動車業界の地図で確かめられます。
受注生産では、1件ごとの契約が売上の元になります。会社は、売上とは別に、その期に新しく受けた注文の額(受注高)を開示します。川崎重工業の2026年3月期の車両の受注高は3,191億円で、ニューヨーク市交通局向けの新型地下鉄電車などがありました。IHIの航空・宇宙・防衛の受注高は7,031億円です(IHI 2026年3月期 決算短信(2026年5月25日訂正後))。造船について海事レポートは、手持ち工事量が2021年春ごろからの受注の増加で3年分を超える水準まで回復した一方、建造量は伸び悩んでいると書いています。受注が増えても、造る力がなければ売上にはなりません。
修理と整備も、受注生産の分野の稼ぎ方の1つです。SJACの航空機工業の生産額では、修理が17.5%を占めます。IHIは、民間向けの航空エンジンで、航空機の運航時間が増えたことを背景にアフターマーケット(納めた後の整備・部品)の事業が拡大したと書いています。鉄道車両でも、統計に新造とは別に修理・改造の金額があります。売った後も長く続く仕事があることが、量産の車とは違う点です。
防衛の需要は、航空機・船・宇宙に関わります。SJACの航空機工業の生産額のうち防衛が29.7%です。川崎重工業は航空宇宙システムの売上が防衛省向けなどで増えたと書き、海事レポートは艦艇・巡視船を国内の造船業が建造・修繕していると説明しています。防衛装備の制度は、この記事では扱いません。
量産と受注生産のどちらが儲かる、どちらが安定する、とは一概に言えません。量産は販売の数量や関税などの費用、受注生産は案件ごとの採算や工程の遅れで、利益が動きます。求人を見るときは、配属される事業がどちらの作り方で、何で売上が立つかを確かめます。
重工各社は、1社でいくつもの分野にまたがる
重工の会社は、1社の中に船・航空機・鉄道車両・宇宙・発電などの事業を持ちます。下の図は、三菱重工業・川崎重工業・IHIの2026年3月期の報告セグメント(決算で開示する事業の区分)の売上の構成と、区分の中身がどの分野の地図に当たるかを、会社ごとに示したものです。
重工各社の事業は、輸送機器のどの分野にまたがっているのか(会社の例)
会社どうしでは比べない。色は区分を見分けるためのもので、分野を表さない。「→」の後ろが関係する分野の地図。
- 航空・宇宙・防衛40.5%航空エンジン・ロケットシステム・宇宙利用・防衛機器システム → 航空機産業の業界地図/宇宙産業の業界地図
- 産業システム・汎用機械28.0%車両過給機・舶用過給機を含む → 自動車部品の業界地図/造船・舶用工業の業界地図
- 資源・エネルギー・環境23.4%舶用原動機を含む。ほかは発電の設備など → 造船・舶用工業の業界地図/重電・電力機器の業界地図
- 社会基盤8.2%橋梁・水門・交通システムなど
受注高の例:航空・宇宙・防衛 7,031億円。造船は持分法適用会社JMUの持分を一部譲渡(議決権 今治造船60%・JFE20%・IHI20%)
- パワースポーツ&エンジン28.4%二輪など。主として見込み生産 → 二輪車(バイク)の業界地図
- 航空宇宙システム26.1%防衛省向け、民間航空機向け分担製造品など → 航空機産業の業界地図
- エネルギーソリューション&マリン19.1%船舶海洋を含む → 造船・舶用工業の業界地図
- 精密機械・ロボット11.6%→ FA・産業用ロボットの業界地図
- 車両9.8%鉄道車両 → 鉄道車両の業界地図
- その他4.8%
受注高の例:車両 3,191億円(ニューヨーク市交通局向けの新型地下鉄電車など)
- エナジー41.5%火力・原子力・風力などの発電が中心。航空機用エンジン・舶用機械を含む → 重電・電力機器の業界地図/航空機産業の業界地図/造船・舶用工業の業界地図
- 航空・防衛・宇宙28.1%民間航空機・防衛航空機・飛しょう体・艦艇・宇宙機器 → 航空機産業の業界地図/宇宙産業の業界地図/造船・舶用工業の業界地図
- プラント・インフラ17.7%商船・交通システムを含む → 造船・舶用工業の業界地図/鉄道車両の業界地図/プラントエンジニアリングの業界地図
- 物流・冷熱・ドライブシステム12.7%ターボチャージャ・カーエアコンを含む → 自動車部品の業界地図
フォークリフトなどのロジスネクストの事業は当期に非継続事業に分類(構成比に含まない)
図は会社ごとに別々に読みます。帯の長さはどれも100%で、会社の大きさを表しません。3社ともIFRS(国際会計基準)ですが、区分の利益の名前は、三菱重工業と川崎重工業が会社の定義する「事業利益」、IHIが営業損益で、中身が違います。そのため、利益や利益率は会社どうしで比べません。
大事なのは、会社の区分の境目が、分野の境目と一致しないことです。区分の売上を、そのまま「その会社の造船の売上」「航空機の売上」とは読めません。
IHIは、航空・宇宙・防衛の区分が報告セグメントの売上の40.5%で、航空エンジン・ロケットシステム・宇宙利用・防衛機器システムが入ります(計算値。以下の構成比も同じ)。一方、車の過給機(ターボチャージャ)と船の過給機は産業システム・汎用機械(28.0%)、船のエンジン(舶用原動機)は発電の設備と同じ資源・エネルギー・環境(23.4%)、交通システムは社会基盤(8.2%)に入ります。造船では、持分法を適用する会社ジャパン マリンユナイテッド(JMU)の持分の一部を今治造船に譲り、議決権の比率は今治造船60%・JFE20%・IHI20%になりました。
川崎重工業は、二輪などのパワースポーツ&エンジンが28.4%、航空宇宙システムが26.1%、エネルギーソリューション&マリンが19.1%、精密機械・ロボットが11.6%、車両が9.8%、その他が4.8%です(分母は「その他」を含む計)。船の事業は、エネルギーソリューション&マリンの中にあります。見込み生産のパワースポーツ&エンジンと、受注生産の航空・車両・船が、1社の中に並ぶ例です。精密機械・ロボットは「FA・産業用ロボットの業界地図」の範囲です。
三菱重工業は、輸送機器にあたる製品が4つの区分すべてに散らばっています。民間航空機・防衛航空機・艦艇・宇宙機器は航空・防衛・宇宙(28.1%)、商船と交通システムはプラント・インフラ(17.7%)、ターボチャージャとカーエアコンは物流・冷熱・ドライブシステム(12.7%)、航空機用エンジンと舶用機械はエナジー(41.5%)に入ります。最も大きいエナジーの区分は、火力・原子力・風力などの発電が中心で、「重電・電力機器の業界地図」の範囲です(三菱重工業 2026年3月期 決算短信)。フォークリフトなどのロジスネクストの事業は、当期に非継続事業(売却などで継続しない事業)に分けました。2026年度からは区分の名前が変わるため、次の期の値とはそのまま比べられません。
重工の会社で働く場合、同じ会社でも、配属される区分によって、作り方・買い手・かかる法律が違います。求人票の部署名が、どの区分の、どの製品の仕事かを確かめます。
分野ごとにかかる法律:誰の義務か、申請による制度か
輸送機器には、分野ごとに安全を確かめる法律があります。下の表は、主な法律が誰に何を求めるかを並べたものです。「しなければならない」義務と、「申請により」国が行う制度を分けています。
分野ごとに、どの法律の手続きが誰にかかり、それがどんな仕事になるのか
| 分野 | 法律と条文 | 誰に、何を(義務申請みなし) | 仕事への関係 |
|---|---|---|---|
| 自動車 | 道路運送車両法 第75条・第75条の3・第58条 |
| 認証の書類と試験の記録、量産車の完成検査と品質保証 |
| 鉄道車両 | 鉄道事業法 第13条・第14条 |
| メーカーは鉄道会社の確認に必要な設計・試験の書類をそろえる |
| 船 | 船舶安全法 第6条・第6条ノ2・第8条、造船法 第2条 |
| 設計、検査に合わせた書類と工程の管理、設備の計画 |
| 航空機 | 航空法 第12条・第20条、航空機製造事業法 第2条の2 |
| 品質保証・認証の書類、製造と修理の記録 |
| 宇宙 | 宇宙活動法 第4条・第20条 |
| 打上げと運用の安全管理、申請の書類 |
自動車:道路運送車両法では、国土交通大臣は申請により、自動車をその型式について指定します(第75条、型式指定)。型式指定は申請による制度です。指定を受けた型式の車を譲渡するときは、指定を受けた者が保安基準に合うかを検査し、完成検査終了証を交付しなければなりません(同条第4項)。部品などの装置にも、申請による型式の指定があります(第75条の3)。使う側では、車は国の検査を受けて自動車検査証の交付を受けなければ運行できません(第58条)。整備工場の認証は「自動車整備の業界地図」で扱います。
鉄道車両:鉄道事業法では、車両を使う前に国土交通大臣の確認を受ける義務があるのは、車両メーカーではなく鉄道運送事業者(鉄道会社)です(第13条)。設計の能力について鉄道事業者の申請により認定を受けると、手続きを簡単にできます(第14条)。メーカーは、鉄道会社が確認を受けるための設計や試験の書類をそろえる側になります。
宇宙:宇宙活動法(人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律)では、国内の打上げ施設などを使って人工衛星などを打ち上げようとする者は、その都度、内閣総理大臣の許可を受けなければなりません(第4条)。人工衛星を管理しようとする者は、衛星ごとに許可を受けます(第20条)。
どの法律も、主語は「輸送機器のメーカー」ではありません。製造者、鉄道運送事業者、施設を新設する者、打上げを行おうとする者など、条文が決めた人です。どの手続きにどの部署が関わるかは、会社と製品によって違います。
変化:造船の再生、防衛、航空エンジンの整備、認証、関税
造船は、中国・韓国との競争の中で国が再生の目標を立てています。海事レポートによると、2025年の世界の新造船の建造量(総トン)のシェアは、日本13%・中国53%・韓国28%です。2025年12月には、国土交通省と内閣府が「造船業再生ロードマップ」を策定し、現在約900万総トンの年間の建造量を、2035年に1,800万総トンへ倍増する目標を掲げました。柱には、建造体制の強靭化や人材の確保・育成などがあります。造船所ごとの動きは「造船・舶用工業の業界地図」で扱います。
防衛の需要は、航空機・船・宇宙の事業に関わります。川崎重工業は航空宇宙システムで防衛省向けの売上が増えたと書き、IHIは次期戦闘機用のエンジンの国際共同開発に取り組んでいると書いています。いずれも会社の記述です。
民間の航空エンジンでは、整備の仕事が増えています。IHIは、運航時間の増加でアフターマーケットの事業が拡大したことに加え、出荷済みのPW1100G-JMエンジンの追加の整備への対応や、鶴ヶ島工場での修理棟の建設を書いています。エンジンの部位ごとの分担は「航空機産業の業界地図」で扱います。
認証と検査の書類も問われています。自動車では、型式指定の申請での不正を受けて、2025年3月に国土交通省が制度を改め、申請者に認証業務の内部統制の体制の報告や、型式指定の後の量産車の試験と結果の報告を求めることにしました(国土交通省 2025年3月31日の発表)。川崎重工業は、2024年に判明した潜水艦の修繕事業と舶用エンジン事業の不正事案について、特別調査委員会の調査が完了し、再発防止策に取り組むと決算短信に書いています。
米国の関税と電動化は、まず自動車に響いています。川崎重工業は、パワースポーツ&エンジンが関税のコストの上昇などで減益になったと書いています。自動車の関税・電動化・ソフトウェアの変化は「自動車業界の地図」で扱います。
仕事の共通点と違い、求人票で確かめること
設計・生産技術・品質保証・調達・営業は、どの分野にもある仕事です。違うのは仕事の重心です。量産では、同じ型を決めた品質と原価で作り続けることに重心があります。受注生産では、1件ごとの仕様を決め、工程と費用を管理し、検査や認証に対応し、引き渡した後も長く修理や整備を続けることに重心があります。4つ目の図の下の段に、共通の仕事と違いをまとめました。
会社の職種名の例を2つ挙げます。三菱重工業のキャリア採用(中途採用)の職種のカテゴリには、技術系に研究開発・設計・生産技術・生産管理・品質保証・プロジェクトマネージャー・プロジェクトエンジニア・サービスエンジニア・技術営業・開発試験など、技能系に製造や複合材成形・仕上げ作業などがあります(三菱重工業 キャリア採用)。量産の側では、デンソーの新卒採用に「モビリティソフトエンジニア」「モノづくりエンジニア(生産技術)」の区分があります(デンソー 新卒採用)。どちらも1社の区分で、ほかの会社も同じ呼び名とは限りません。
次の表は、分野ごとの統計の分類と、次に読む地図をまとめたものです。
| 分野 | 統計の分類(日本標準産業分類) | 作り方の中心 | 次に読む地図 |
|---|---|---|---|
| 完成車・販売・整備 | 3111 自動車製造業(二輪を含む) | 量産 | 自動車業界の地図 |
| 自動車部品・タイヤ | 3113 自動車部分品・附属品(タイヤは1911) | 量産 | 自動車部品の業界地図 |
| 二輪 | 3111に含む | 量産 | 二輪車(バイク)の業界地図 |
| 鉄道車両 | 3121 鉄道車両・3122 部分品 | 受注生産 | 鉄道車両の業界地図 |
| 造船・舶用 | 3131〜3134 | 受注生産 | 造船・舶用工業の業界地図 |
| 航空機 | 3141〜3149 | 受注生産 | 航空機産業の業界地図 |
| 宇宙 | 3199に含む | 受注生産 | 宇宙産業の業界地図 |
求人票と会社の資料では、次の点を確かめます。
- 分野と作り方:配属される事業が、量産(自動車・二輪・部品)か、受注生産(鉄道車両・船・航空機・宇宙)か
- 買い手:個人・法人か、鉄道会社・海運会社などの運輸の事業者か、防衛省や海外の機体メーカーか
- 会社の区分:重工の会社なら、決算短信のどの区分の、どの製品の仕事か。区分名と分野が一致しないことがある
- 手続き:その製品にかかる法律(型式指定・製造検査・型式証明・製造事業の許可・打上げの許可など)に、担当業務がどう関わるか
- 働き方:交替勤務の有無、勤務地と転勤の範囲、客先や造船所・工場への出張。分野と部署で違うため、求人票と面接で確かめる
大きさの数字を見るときは、統計の出荷額等か、業界団体の生産額やアンケートの売上か、いつの年か年度かを確かめます。分野が決まったら、その分野の業界地図で、会社ごとの違いと仕事の流れを確かめます。
完成車メーカーへ納める部品の品目、取引と電動化の影響は、自動車部品の業界地図で確かめられます。
車を作った後の車検・修理の事業と整備士の仕事は、自動車整備の業界地図で確かめられます。



