塾の求人には、教室を任される教室長、正社員の講師、校舎の事務、フランチャイズ教室を指導する本部の社員、アルバイトの講師まで幅があります。同じ「塾」でも、授業が集団か個別か映像か、教室が直営かフランチャイズかで、雇う会社も、教室で求められる役割も変わります。
この記事では、学校の外で、入試や学校の勉強の補習のために学力を教える学習塾・予備校・家庭教師を扱います。塾の型、保護者が払うお金の名目、売上が増える時期、教室の人の構成、直営とフランチャイズの違い、契約のルール、塾の仕事を順に確かめます。
学校法人や公立の学校、専修学校(専門学校)の位置づけは「学校の業界地図」で扱います。学童保育は「保育・子育て支援の業界地図」で扱います。幼児教室や大学生・社会人向けのスクールは、この記事では詳しく扱いません。企業が社員のために払う研修は「コンサルティングの業界地図」で、塾の会社が手がける例も含めて扱います。通信教育や教育向けソフトの製品比較は扱いません。
数字は、国の統計と、塾の会社の決算短信(上場していた時期のものを含む)から取っています。統計は2025年に新しい調査へ切り替わり、会社の決算期もそろっていません。数字には期と定義を添え、会社どうしの大きさは比べません。
塾の型は、授業の形と運営の形の2つで分かれる
統計の上では、学習塾は日本標準産業分類の細分類「学習塾」(8231)に当たります。学習塾は、学校教育法第1条が定める学校(小学校・中学校・高校など)には当たりません。
塾の違いは、まず授業の形で分かれます。講師1人が教室で多くの生徒に教える集団指導、講師が少人数の生徒を見る個別指導、録画した授業を生徒が見る映像授業、生徒の家などで教える家庭教師です。もう1つの分かれ目が運営の形で、会社が自分で教室を持つ直営と、本部と契約した加盟者が教室を運営するフランチャイズ(FC)があります。
塾の型は、授業の形と運営の形で分かれる
各社の開示から、それぞれの例を見ます。
- 早稲田アカデミーは集団指導の進学塾が中心です。2026年3月期の期中平均塾生数50,837人のうち、小学部が30,666人です。個別指導の「個別進学館」もFCを含めて76校あります(2026年3月期決算短信)。
- 明光ネットワークジャパンは個別指導の「明光義塾」を運営し、2026年8月期の教室は直営473、FC1,150です(2026年8月期決算短信)。
- 東京個別指導学院は、個別指導塾が主な事業です(2025年2月期決算短信)。同社は株式の併合を経て、2026年1月8日に上場をやめました(同社の公表)。この記事の同社の数字は、上場していた時期の決算短信のものです。
- リソー教育グループは、完全1対1の個別指導「TOMAS」、社会人のプロ講師による家庭教師「名門会」、学校の中に個別指導のブースを置く「スクールTOMAS」を事業として分けています(2026年2月期決算短信)。
- ナガセは、大学受験の予備校として、直営の東進ハイスクール96校と、FC加盟校の東進衛星予備校920校を持ちます(2026年3月期末、2026年3月期決算短信)。同社の事業紹介によると、東進衛星予備校は、全国の塾とフランチャイズ契約を結び、東進ハイスクールの講師の授業を映像で配信する形です(ナガセの事業紹介)。
1つの会社が複数の型を持つこともあります。早稲田アカデミーは自社の集団指導のほかに、ナガセのFCである東進衛星予備校を9校、加盟者として運営しています。求人を見るときは、会社名だけでなく、どの型の教室の募集かを確かめる必要があります。
お金を払うのは保護者。名目は授業料・講習会費・教材費
塾にお金を払うのは、多くの場合、生徒の保護者です。文部科学省の「子供の学習費調査」は、学習塾費を、塾に通うために使ったすべての経費と定義しています。入会金、授業料(月謝)、講習会費、教材費、通っている塾での模擬テスト代、塾への交通費が含まれます(令和5年度 結果のポイント(訂正版))。
令和5年度の学習塾費は、子供1人あたり1年間で次のとおりです。
| 学校の種類 | 公立 | 私立 |
|---|---|---|
| 小学校 | 75,194円 | 259,492円 |
| 中学校 | 230,385円 | 168,058円 |
| 高校(全日制) | 147,140円 | 166,867円 |
この平均は、塾に通っていない子供(支出が0円)も含めた全体の平均です。塾に通う子供だけの平均や、平均の月謝ではありません(統計表1)。
塾の売上の大部分は授業の料金です。2024年までの経済産業省の特定サービス産業動態統計では、調査対象企業の学習塾の売上のうち、約93.6%が受講料収入、約6.4%が教材料の売上でした(2024年、本記事での計算値。長期データ)。この統計は調査対象企業の集計で、業界全体に引き延ばした数字ではないため、ここでは比率だけを使います。
塾の売上は、夏と冬に山がある
塾の売上の大きさは、総務省の「サービス産業動態統計調査」で見られます。2025年1月に旧来の2つの統計が統合されてこの調査ができ、学習塾の売上は細分類の特別集計として「参考値」の扱いで公表されています(特別集計の利用上の注意)。
2025年1〜12月の学習塾の売上(収入)金額を足すと、1,360,988百万円(約1兆3,610億円)です(参考表)。統計局は年の合計を公表しておらず、これは月ごとの値を本記事で足した計算値です。2024年までの特定サービス産業動態統計は、母集団への復元をしていないなど調査の設計が違い、統計局は実数で比べられないとしています。そのため、旧統計の売上の金額とは並べません。
学習塾の売上は、8月と12月に山があり、5月が最も小さい
年の合計:1,360,988百万円(約1兆3,610億円)。月ごとの値を本記事で足した計算値で、統計局が公表した年の値ではない。8月と12月の2か月で約20.9%(計算値)。10月(125,627)は7月(121,071)より大きい。
会社の説明:東京個別指導学院は、3〜5月の第1四半期の営業利益は季節変動の影響で赤字となる傾向があると説明している(2026年2月期第1四半期は営業損失756百万円。同社は2026年1月に上場廃止)。
注意:特別集計の参考値。2024年までの旧統計(特定サービス産業動態統計)とは調査の設計が違い、金額を比べられない。授業料と講習会費の区分はない。
2025年の月ごとの売上は、8月の147,247百万円が最も大きく、5月の93,194百万円が最も小さくなっています。次に大きいのは12月の137,126百万円で、8月と12月の2か月で年の合計の約20.9%です(本記事での計算値)。夏休みと冬休みの時期に山がある形です。一方、10月の125,627百万円は7月の121,071百万円より大きく、山は夏と冬だけではありません。ただし統計は授業料と講習会費を分けていないため、講習会費だけでこの山ができているとは言えません。
会社の側でも、季節の差が説明されています。東京個別指導学院は、3〜5月の第1四半期の営業利益は事業の構造上、季節変動の影響で赤字となる傾向があると説明しています。2026年2月期の第1四半期(2025年3〜5月)は、売上高4,601百万円に対し、営業損失756百万円でした(2026年2月期 第1四半期決算短信)。
教室は、教室長と多くの非常勤講師で回る
塾の教室では、教室を任される社員と、授業を担当する講師、校舎の事務が働きます。雇われ方は、社員とアルバイトで分かれます。早稲田アカデミーの採用区分は新卒・中途・アルバイトで、社員の職種として総合職(講師・本社スタッフ)と事務職(校舎事務・本社事務)があります。明光ネットワークジャパンの採用ページは新卒・中途・障がい者採用の区分で、教室長などの職種を募集しています。FCの教室では、雇う会社が本部ではなく加盟者のことがあります。
教室は教室長と多くの非常勤講師で回り、FCでは本部と教室の売上が分かれる
- エリアマネージャー:複数の教室を統括(明光)
- スーパーバイザー:FC教室の経営指導とコンサルティング(明光)
- 本社スタッフ・本社事務(早稲田アカデミー)
- 教室長:教室の運営全般、生徒・保護者への対応、講師の育成、数値の管理(明光)
- 講師(社員):総合職の講師(早稲田アカデミー)
- 講師(アルバイト):早稲田アカデミーは採用区分に「アルバイト」がある
- 校舎事務(早稲田アカデミーの事務職)
特定サービス産業動態統計の2024年の値では、調査対象企業の講師のうち約89.4%が非常勤講師でした(本記事での計算値)。専任の講師は約10.6%です。統計の専任・非常勤は、正社員・アルバイトの区別と同じではありません。また、この統計は調査対象企業の集計のため、講師の人数は業界全体の人数として使わず、比率だけを示します。
費用の内訳は、早稲田アカデミーの開示で見られます。同社の2026年3月期の売上原価(提出会社単体)では、人件費が50.6%、教材費等が18.6%、経費が30.8%でした。経費のうち半分以上は賃借料で、売上原価の約17.3%です(本記事での計算値)。これは費用の割合で、働く人の割合ではありません。
アルバイトの講師には、授業の外の仕事の扱いという論点があります。厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」は、労働時間を使用者の指揮命令の下に置かれている時間とし、使用者の明示または黙示の指示で業務に従事する時間は労働時間に当たるとしています(ガイドライン)。厚生労働省と文部科学省が以前に作った「学生アルバイトの労働条件に関する自主点検表」は、学習塾などの講師が授業以外に行う質問への対応や報告書の作成の時間を、労働時間になる可能性がある時間の例として挙げています(福井労働局に掲載の自主点検表)。点検表は事業者に点検を呼びかけるもので、新しい義務を定めるものではありません。
直営とフランチャイズでは、教室の売上と本部の売上が分かれる
FCの教室を運営するのは、本部と契約した加盟者です。本部の売上と教室の売上は別になります。
明光ネットワークジャパンは、直営とFCの数字を分けて開示しています。2026年8月期は、FC教室の授業料などの売上(会社は「末端売上高」と呼びます)が23,948百万円でした。この数字には、FC教室の教材費やテスト料などは入りません。本部のFC事業の売上高は4,261百万円で、ロイヤルティ収入と商品の売上高などからなります。FC事業のセグメント利益(事業の区分ごとの利益)は819百万円です。本部の売上には商品の売上も含まれるため、2つの数字の比はロイヤルティの率ではありません。
FCの本部では、加盟者の教室を指導する仕事があります。明光ネットワークジャパンは、スーパーバイザーをFC教室の経営指導とコンサルティングを行う職種、エリアマネージャーを複数の教室を統括する職種として募集しています。
塾本部による加盟教室の経営指導と、外部企業が受託する経営支援は、依頼主・契約・仕事の範囲を分けて見ると比較できます。 コンサル業界の地図
ナガセでは、東進ハイスクールの直営96校に対し、東進衛星予備校のFC加盟校が920校あります(2026年3月期末)。東進ハイスクール・東進衛星予備校・早稲田塾などの高校生部門の売上高は30,068百万円ですが、直営校の授業料と加盟校からの収入の内訳は開示されていません。
FCの教室の求人では、雇う会社が本部なのか、加盟者なのかを、求人票の会社名で確かめます。教室の仕事は似ていても、雇う会社が違えば、給与や休日の決まり、異動の範囲が違うことがあります。
塾の契約には、特定商取引法のルールがある
施行令は、事業者が用意する教室などで教える「学習塾」と、それ以外の場所で教える「家庭教師等」を分けています。消費者庁の解説では、学習塾・家庭教師等のどちらでも、電話やインターネットなどで行う授業も広く含まれます。小学生が中学校の入試に備える塾も、条件を満たせば対象です。一方、浪人生だけを対象にしたコースは学習塾に当たりません。高校生と浪人生の両方を対象にするコースは、全体が対象です。幼稚園・小学校の受験対策は、学習塾にも家庭教師等にも当たりません(消費者庁 特定商取引法ガイド)。
期間2か月超・5万円超の塾の契約には、書面の義務と、解約の権利がある
| 区分 | 授業の開始前 | 授業の開始後 |
|---|---|---|
| 学習塾(事業者が用意する場所) | 1万1千円 | 受けた授業の対価+「2万円」か「1か月分の授業料」の低い方 |
| 家庭教師等(それ以外の場所) | 2万円 | 受けた授業の対価+「5万円」か「1か月分の授業料」の低い方 |
法律は、事業者の義務と、消費者の権利を分けて定めています。
| 区分 | 内容 | 条文 |
|---|---|---|
| 事業者の義務 | 契約の前に概要書面を、契約の後に遅滞なく契約書面を渡す。書面には授業の内容、料金、支払いの時期、期間、契約の解除のことなどを書く | 第42条 |
| 消費者の権利(クーリング・オフ) | 契約書面を受け取った日から数えて8日を過ぎるまでは、書面か電磁的記録で契約を解除できる。事業者は損害賠償や違約金を請求できず、すでに行った授業の対価も請求できない。受け取ったお金は速やかに返す。関連する商品の契約も同じ | 第48条 |
| 消費者の権利(中途解約) | 8日を過ぎた後も、将来に向かって契約を解除できる。事業者が請求できる額には上限がある | 第49条 |
中途解約で事業者が請求できる上限は、学習塾では、授業の開始前が1万1千円です。開始後は、すでに受けた授業の対価に、2万円か1か月分の授業料のいずれか低い額を加えた額までです。家庭教師では、開始前が2万円、開始後は5万円か1か月分のいずれか低い額が加わります。支払いが遅れた場合は、これに法定利率による遅延損害金が加わることがあります。
教室長などが入会の説明や契約の手続きを担う塾では、これらの書面の扱いも教室の仕事に含まれます。個別の契約が対象になるかどうかは、契約の期間・金額・コースの中身で変わります。
生徒数の動きは、会社によって違う
この記事では、少子化の影響を人口の数字では示しません。会社の開示から言えるのは、それぞれの会社の動きです。
- 早稲田アカデミーの2026年3月期の期中平均塾生数は、前の期より4.0%増えました。
- 明光義塾の在籍生徒数の合計は、2026年8月期に104,885名で、前の期より5,065名増えました。教室数の合計は1,660から1,623に減っています。
- 東京個別指導学院の2025年2月期の期中平均在籍生徒数は31,348名で、前の期の102.0%でした。同社は2025年4月に、ベネッセコーポレーションから「進研ゼミ個別指導教室」の事業を引き継いでおり、この生徒数は引き継ぐ前の期のものです。同社の親会社はベネッセホールディングスで、同社は2026年1月に上場をやめています。
これらは各社の数字で、業界全体の傾向を表すものではありません。なお、親会社で通信教育の「進研ゼミ」を持つベネッセホールディングスも、2024年に株式の併合によって上場をやめています(日本取引所グループの公表)。
塾の仕事と、求人票で確かめること
塾の仕事は、教室で生徒と保護者に向き合う仕事と、本部で教室を支える仕事に分かれます。下の表の職種名と採用区分は、各社の採用ページで確かめたものです。
| 仕事 | 確かめた職種名の例 | 主な相手 | 主な仕事 |
|---|---|---|---|
| 教室の運営 | 教室長(明光ネットワークジャパン) | 生徒、保護者、講師 | 教室の運営全般、保護者への対応、講師の育成、数値の管理 |
| 授業(社員) | 講師(早稲田アカデミーの総合職) | 生徒 | 授業 |
| 授業(アルバイト) | 職種名は各社で確かめる(早稲田アカデミーは採用区分に「アルバイト」がある) | 生徒 | 授業。授業の外の質問対応や報告書の作成がある塾もある |
| 教室の事務 | 校舎事務(早稲田アカデミーの事務職) | 生徒、保護者 | 校舎の事務 |
| 複数教室の統括 | エリアマネージャー(明光ネットワークジャパン) | 教室長 | 複数の教室の統括 |
| FC教室の指導 | スーパーバイザー(明光ネットワークジャパン) | FCの加盟者 | FC教室の経営指導とコンサルティング |
| 本部 | 本社スタッフ・本社事務(早稲田アカデミー)、コーポレート部門(明光ネットワークジャパン) | 社内の各部門 | 本社・本部の業務 |
求人票では、次の4点を確かめます。
- 雇われ方:社員か、アルバイトか。直営かFCか。FCの教室なら、雇う会社は本部か加盟者か
- 授業の形と学年:集団か個別か映像か。小学生の中学受験か、高校受験か、大学受験か
- 講習の時期の勤務:夏期・冬期の講習の時期に、授業や勤務の時間がどう変わるか
- 授業の外の仕事:アルバイトの講師なら、質問対応や報告書の作成の時間に賃金が出るか
小学生の放課後を預かる学童保育の仕組みは、保育・子育て支援の業界地図で確かめられます。


