「鉄鋼メーカー」の求人には、高炉や圧延機を動かすオペレーター、設備を直す保全、鋼の品質を見る技術者、自動車会社や商社と話す営業、鉄鉱石や鉄スクラップを買う原料購買まで幅があります。同じ鉄鋼でも、鉄鉱石から鉄を作る高炉の製鉄所と、鉄スクラップを溶かす電炉の工場では、原料も設備も、値段の決まり方も違います。
この記事では、鉄を作り(製銑・製鋼)、延ばして鋼材にし(圧延)、使う会社に届ける(流通)までを扱います。工程と統計の物差し、高炉と電炉の違い、普通鋼と特殊鋼の品種と需要先、ひも付きと店売りという値段の決まり方、電炉への転換と海外、製鉄所と本社の仕事を順に見ます。
鋳物や鍛造品(統計では「鉄素形材」)は、統計の上では鉄鋼業に入りますが、「金属加工の業界地図|鋳造・鍛造・プレス・板金と受託加工」で扱います。鉄スクラップの回収と加工処理の事業は「廃棄物処理・リサイクルの業界地図|ごみは誰の責任で、誰が集め、処理し、資源に戻してどう稼ぐのか」、鉄鋼を扱う商社の会社比較と稼ぎ方は『商社・卸売の業界地図|総合商社と専門商社・卸は、何を仕入れ、誰に売り、どこで稼ぐのか』で扱います。アルミなどの非鉄は「非鉄金属の業界地図|製錬・圧延・電線と素材の流れ」、製鉄所の設備を造る仕事は「プラントエンジニアリングの業界地図|工場や発電所を一括で造る会社は、どこで稼ぎ、何に賭けるのか」で扱います。
鋼材を買う側の話は、自動車は「自動車業界の地図|完成車・部品・販売・整備と仕事のつながり」と「自動車部品の業界地図|Tier構造・品目・電動化とタイヤまで」、船は「造船・舶用工業の業界地図|造船所・舶用メーカー・海運会社の関係と仕事」、建物と土木は「建設・住宅・プラントの業界地図|設計・元請・専門工事は、発注者から仕事をどう受け、どう分担して稼ぐのか」にあります。鉄鋼が素材の中でどこに位置するかは「素材・金属・紙の業界地図|鉄・非鉄・紙・ガラス・セメント・繊維は、どの工程で何を作り、どう稼ぐのか」で確かめられます。
鉄鋼は「つくる・延ばす・届ける」の3段で読む
鉄鋼の会社の仕事は、鉄を作る段、鋼を延ばして形にする段、使う会社に届ける段に分かれます。どの段を受け持つかで、会社の設備も働き方も変わります。
鉄鋼の位置は、非鉄・紙などを含む素材全体の工程と価格形成から確認できます。 素材・金属・紙の地図
1つ目の流れは、高炉を使う「高炉一貫」です。JFEスチール東日本製鉄所の採用ページは、工程を次のように説明しています。製銑では、鉄鉱石や石炭などの原料を高炉に入れ、熱風と酸素を吹き込んで溶かし、銑鉄(せんてつ)を作ります。製鋼では、転炉で銑鉄の不純物を取り除いて鋼に変え、連続鋳造で鋼片(スラブなど)にします。熱延では、スラブを加熱して延ばし、熱延コイルにします。冷延では、熱延コイルを常温でさらに薄く延ばします。ほかに、厚板や溶接管を作る工程もあります。これを1つの製鉄所の中で続けて行うのが高炉一貫です。
2つ目の流れは「電炉」です。電気炉で主に鉄スクラップを溶かして鋼を作り、連続鋳造と圧延で鋼材にします。鉄鉱石から鉄を取り出す製銑の工程がありません。
鉄鉱石と鉄スクラップは、2つの流れを通って鋼材になる
- 原料鉄鉱石・石炭(輸入)
- 製銑高炉で溶かして銑鉄にする
- 製鋼転炉で不純物を除き鋼にする
- 連続鋳造鋼片(スラブなど)にする
- 圧延・仕上げ熱延コイル→冷延・めっき、厚板、形鋼・棒鋼・線材、鋼管
- 原料鉄スクラップ
- 製鋼電気炉で溶かして鋼にする
- 連続鋳造鋼片にする
- 圧延鋼板・形鋼・棒鋼など
受け入れた鋼片・薄板を圧延・造管・伸線する
めっきなどをする
受け入れたコイル・鋼板を切断する(流通の途中)
→「金属加工の業界地図」で扱う
→「廃棄物処理・リサイクルの業界地図」で扱う
→「非鉄金属の業界地図」で扱う
国の日本標準産業分類は、この流れを細かい分類に分けています。「高炉による製鉄業」は、高炉で銑鉄を作る事業所で、一貫作業で鋼材まで作る事業所も含みます。「製鋼・製鋼圧延業」は、転炉や電気炉で鋼を作り、鋼材まで作る事業所です。電炉の工場の多くはここに入ります。
鋼を作らない事業所もあります。「製鋼を行わない鋼材製造業」は、ほかの会社から鋼片や薄板を受け入れ、圧延・鋼管の製造・伸線(線を引き延ばす加工)などをする事業所です。めっきなどをする「表面処理鋼材製造業」もあります。「鉄鋼シャースリット業」は、広い幅のコイルや鋼板を受け入れて切断する事業所で、流通の途中で注文の寸法に合わせる役割を持ちます。
工程の量を表す言葉に「粗鋼(そこう)」があります。日本鉄鋼連盟によると、粗鋼は圧延する前の鋼の量を表す統計用語です。2025年度(2025年4月〜2026年3月)の粗鋼生産は8,033万トンで、前年度より3.2%減りました。炉の種類で見ると、転炉が74.1%、電炉が25.9%です。
大きさは、細分類の金額・人数と、粗鋼のトンを分けて読む
鉄鋼業の大きさを示す数字は、物差しによって中身が違います。国の2025年経済構造実態調査では、中分類「鉄鋼業」の製造品出荷額等は22兆8,285億円(2024年の1年間)、従業者は213,387人(2025年6月1日時点)、事業所は4,835です。出荷額等は売上に近い金額で、利益ではありません。個人経営の事業所は含みません。
ただし、この中分類には、鋳物・鍛造品の鉄素形材、シャースリット、鉄スクラップの加工処理まで入っています。そのため、22兆8,285億円を「製鉄会社の大きさ」として読むことはできません。この記事の範囲は、細分類に下りて読みます。
鉄鋼の大きさは、細分類の金額・人数と、粗鋼のトンを分けて読む
11事業所34,481人
71事業所26,484人
367事業所36,220人
1,418事業所31,769人
55事業所2,742人
1,206事業所48,125人
612事業所13,791人
- 2025年度(2025年4月〜2026年3月)
- 8,033万トン
- うち普通鋼/特殊鋼
- 6,197万トン/1,836万トン
- 2024年度
- 8,295万トン
- 2023年度
- 8,683万トン
- 参考:2025年(暦年、1〜12月)
- 8,068万トン(電炉25.8%)
高炉による製鉄業は、11事業所・34,481人で、出荷額等は8兆1,643億円です。鉄鋼業の出荷額等の35.8%に当たります(計算値)。11は会社の数ではなく、高炉が動いている製鉄所(事業所)の数です。1事業所あたりの従業者は約3,100人(計算値)で、大きな製鉄所に人が集まる形です。
製鋼・製鋼圧延業は71事業所・26,484人・3兆9,994億円です。製鋼を行わない鋼材製造業は367事業所・36,220人・3兆4,648億円で、内訳には伸線業9,258億円、熱間圧延業7,544億円、鋼管製造業7,104億円などがあります。シャースリット業は1,418事業所・31,769人・2兆9,615億円です。事業所が多く、1か所あたりの人数が少ない分野です。
鉄素形材(1,206事業所・48,125人・1兆7,045億円)と鉄スクラップ加工処理業(612事業所・13,791人・1兆2,904億円)は、この記事では扱いません。細分類の値を足して「この記事の範囲の合計」を作ることもしません。事業所の間で鋼片やコイルが売り買いされると、同じ鉄が重ねて数えられることがあるためです。
量は、日本鉄鋼連盟の粗鋼のトンで見ます。粗鋼は2023年度8,683万トン、2024年度8,295万トン、2025年度8,033万トンと減っています。暦年(1〜12月)の2025年の粗鋼生産は8,068万トンで、電炉の割合は25.8%でした。「素材・金属・紙の業界地図」はこの暦年の値を使っています。この記事の年度の値とは期間が違うため、数字が少しずれます。出荷額等(円)と粗鋼(トン)は対象も期間も違うため、割って1トンあたりの値段を出すことはできません。
鉄鋼業では、原材料・燃料・電力の使用額等が18兆2,218億円で、出荷額等の79.8%に当たります(2024年、計算値)。原料とエネルギーの値段が、会社の利益を大きく動かす分野だということが分かります。
高炉と電炉で、原料・設備・稼ぎ方が違う
高炉と電炉は、原料も設備の大きさも違います。違いを表にまとめます。
| 比べる点 | 高炉一貫 | 電炉 |
|---|---|---|
| 主な原料 | 輸入の鉄鉱石と石炭 | 鉄スクラップ |
| 鉄を作る炉 | 高炉で銑鉄を作り、転炉で鋼にする | 電気炉でスクラップを溶かして鋼にする |
| 統計の細分類 | 高炉による製鉄業(11事業所) | 主に製鋼・製鋼圧延業(71事業所。転炉の事業所も入る分類) |
| 2025年度の粗鋼 | 転炉鋼5,952万トン(74.1%) | 電炉鋼2,081万トン(25.9%) |
| 会社の例 | 日本製鉄、JFEスチール | 東京製鐵 |
高炉の原料の鉄鉱石は、輸入で調達します。財務省の貿易統計では、令和7年度(2025年度)の鉄鉱石の輸入は9,460万トン、1兆4,295億円でした。日本鉄鋼連盟は、銑鉄1トンを作るには、鉄鉱石1.5〜1.7トン、石炭0.8〜1.0トンなどが必要とされるという目安を、書籍『鋼のおはなし』から紹介しています。2025年度の銑鉄の生産は5,807万トンです。日本製鉄の採用ページでも、原料購買の説明に鉄鉱石の輸入比率100%と書かれています。
高炉一貫製鉄所を持つ会社の例を見ます。決算の期・会計基準・利益の名前が会社ごとに違うため、数字どうしは比べられません。
日本製鉄の2026年3月期(IFRS=国際会計基準)は、製鉄セグメントの売上収益が9兆2,217億円、事業利益が4,400億円でした。事業利益は日本製鉄が独自に定める利益の指標です。製鉄のほかに、エンジニアリング、ケミカル&マテリアル、システムソリューションのセグメントがあります。
JFEホールディングスの2025年度(IFRS)は、鉄鋼事業の売上収益が3兆884億円、セグメント利益が380億円でした。JFEのセグメント利益は、事業利益に金融損益を含めたものです。グループの中に、鉄鋼会社のJFEスチールのほか、エンジニアリング事業と商社事業を持っています。
鋼材を製造する側と、需要家に販売・供給する商社・卸売の仕事を分けて確認できます。 商社・卸売業界の地図
神戸製鋼所は、線材・棒鋼、薄板、厚板などの鉄鋼と、アルミ板を「鉄鋼アルミ」のセグメントにまとめています。2026年3月期(日本基準)の鉄鋼の部分は、売上高8,222億円、経常利益38億円でした。会社は、鋼材の販売数量が減った理由に、人手不足や建設費の上昇による建設需要の停滞を挙げています。アルミ板は「非鉄金属の業界地図|製錬・圧延・電線と素材の流れ」の範囲です。
電炉の会社の例として、東京製鐵は鉄スクラップを買って製品にし、製品の販売価格とスクラップの購入価格の差(メタルスプレッド)で利益が動くと説明しています。
東京製鐵は、鉄スクラップを電気炉で溶かし、鋼板や形鋼などを作る会社です。2026年3月期(日本基準、非連結)の売上高は2,681億円(268,095百万円)、営業利益は72億円(7,230百万円)でした。製品の出荷は276万トン(国内241万トン・輸出34万トン。四捨五入のため合計は一致しない)です。短信では、鉄スクラップの価格は前年を下回ったものの、製品の出荷価格がそれ以上に下がり、生産量が減って固定費の負担も増えたと説明しています。決算説明資料では、2026年1〜3月期に製品の出荷価格が前の四半期より1トンあたり約500円下がり、スクラップの購入価格が約2,300円上がったため、メタルスプレッドが約2,800円縮んだとしています。
東京製鐵は、鉄骨造の建物の着工床面積がおよそ60年ぶりの低い水準に落ち込んだとも書いています。一方で、2025年11月に自動車の分野で同社の電炉鋼材が正式に採用されたとしています。東京製鐵の売り先は、建設向けだけではありません。
普通鋼と特殊鋼:品種と、鋼材が向かう産業
日本鉄鋼連盟の統計は、鋼を普通鋼と特殊鋼に分けて数えています。統計で特殊鋼として数えているのは、工具鋼、構造用鋼(機械構造用炭素鋼・構造用合金鋼)、ばね鋼、軸受鋼、ステンレス、高抗張力鋼などです。2025年度の粗鋼は、普通鋼が6,197万トン、特殊鋼が1,836万トンで、特殊鋼の割合は22.9%です(計算値)。
鋼材がどこへ向かうかは、受注統計で見ます。受注統計は、鉄鋼メーカーが受けた注文の量です。生産量や出荷量とは別の統計なので、粗鋼の値とは比べません。
鋼材は、普通鋼は建設・自動車・船舶へ、特殊鋼は構造用鋼を中心に向かう
使い道が分かっている分は合計2,158万トン。このほか国内向けに販売業者(シャー業者を含む)向1,067万トン(日本鉄鋼連盟は約7割が建設用と推定)と次工程用などがあり、輸出が2,078万トン。受注全体は5,416万トン。
合計1,383万トン(内需1,014万トン・輸出369万トン)。構造用鋼は機械構造用炭素鋼346万トンと構造用合金鋼311万トン。用途別では、内需のうち自動車用が412万トン(内需の40.6%、計算値)。
2025年度の普通鋼の受注は5,416万トンで、国内向け(内需)が3,338万トン、輸出が2,078万トンでした。輸出は受注全体の38.4%です(計算値)。内需のうち、最終的な使い道が分かっている分は2,158万トンで、建設用が812万トン(37.6%)、自動車用が705万トン(32.6%)、船舶用が287万トン(13.3%)です(割合は判明分を分母にした計算値)。建設用の中には、住宅や非住宅の建築用、土木用などが入ります。
内需には、使い道がこの表では分からない分もあります。販売業者(シャー業者を含む)向けの1,067万トンで、内需の32.0%です(計算値)。日本鉄鋼連盟は、このうち約7割が建設用に向けられると推定しています。
普通鋼は、形によって品種に分かれます。この記事では、統計の区分を「薄板」「厚板」「条鋼」「鋼管」の4つにまとめて呼びます。条鋼は、形鋼・棒鋼・線材など、細長い形の鋼材のことです。
| まとめた呼び方 | 統計の主な品種 | 2025年度の受注 |
|---|---|---|
| 薄板 | 熱延コイル | 1,810万トン |
| 薄板 | 亜鉛めっき鋼板 | 736万トン |
| 薄板 | 冷延薄板類(電気鋼板を含む) | 632万トン |
| 薄板 | その他の表面処理鋼板 | 251万トン |
| 厚板 | 厚中板 | 795万トン |
| 条鋼 | 棒鋼・平鋼 | 605万トン |
| 条鋼 | H形鋼 | 260万トン |
| 条鋼 | 形鋼(軌条を含む) | 186万トン |
| 条鋼 | 線材 | 144万トン |
| 条鋼 | 鋼矢板・軽量形鋼 | 42万トン・23万トン |
| 鋼管 | 鋼管 | 240万トン |
品種別の受注には、報告する鉄鋼メーカーどうしの取引も含まれます。そのため、品種の値を足して、用途別の合計と比べることはできません。
品種と使い道の結びつきは、会社の説明で見ます。JFEスチール東日本製鉄所の採用ページでは、冷延鋼板は主に自動車や電気製品に、厚板は船舶や橋、建築材などの大きな構造物に、溶接管はガス・水道管や建設用の鋼管などに使われると説明しています。
特殊鋼の2025年度の受注は1,383万トンで、内需が1,014万トン、輸出が369万トンでした。内需のうち自動車用が412万トンで、内需の40.6%です(計算値)。鋼種別では、構造用鋼が657万トン(機械構造用炭素鋼346万トン・構造用合金鋼311万トン)、高抗張力鋼が327万トン、ステンレスが180万トンです。
特殊鋼の会社の例が、大同特殊鋼です。特殊鋼鋼材のセグメントでは、自動車や産業機械向けを中心とした構造用鋼・工具鋼などを作っています。2026年3月期(IFRS)は、外部の顧客への売上収益が2,078億円(207,781百万円)、セグメント利益が134億円(13,380百万円)でした(営業利益ベース)。主要な原材料は鉄屑(鉄スクラップ)です。同社は型鍛造などの自動車部品・産業機械部品のセグメントも持ち、その事業は「金属加工の業界地図」と「自動車部品の業界地図」の範囲です。特殊鋼の棒鋼や線材は、鍛造の会社や部品の会社が材料として使います。
日本製鉄も、2025年4月に日鉄ステンレスと日鉄鋼管を吸収合併し、2026年5月には山陽特殊製鋼の吸収合併を決めています。高炉一貫の会社の中にも、ステンレスや特殊鋼の事業があります。
鋼材の値段は、ひも付きと店売りで決まり方が違う
鋼材の売り方には、大きく2つの契約の形があります。日本製鉄のファクトブックは、次のように説明しています。
「ひも付き(紐付)契約」は、需要家(鋼材を使う会社)の注文内容、たとえば価格・数量・品質などが鉄鋼メーカーに通じていて、その需要家向けとして鋼材を作り、売る契約です。契約は商社が仲介します。「店売(みせうり)契約」は、最後に使う会社を特定せずに、鉄鋼メーカーが問屋や商社に鋼材を売り切る契約です。問屋や商社は、買った鋼材を自分の責任とリスクで在庫し、市況を見ながら売ります。
日本鉄鋼連盟によると、ひも付きの始まりは戦後に、メーカーが大口・特定の需要家へ直接送るため、先物の契約のときに需要家の申込書を取るようになったことです。需要家の申込みが問屋を通じてメーカーにつながったことから「ひも付き」と呼ばれます。
鋼材の値段は、ひも付きでは需要家の注文に結びつき、店売りでは問屋・商社が市況を見て売る
受注統計の「販売業者向」は普通鋼の内需の32.0%(2025年度、計算値)。問屋・商社を通る流れの目安で、店売りの量そのものではない。
受注統計の「販売業者向」(内需の32.0%)は、問屋や商社を通る流れの目安にはなりますが、店売りの量そのものではありません。
商社や問屋は、流れの途中で在庫を持ち、注文の寸法に切って小口で届けます。その切断をするのが、統計で「鉄鋼シャースリット業」に入る事業所です。商社の例では、阪和興業は鉄鋼のほか製鋼の原料(プライマリーメタル)・リサイクルメタル・食品なども扱い、鉄鋼事業の説明には鋼材の取引と大型工事物件の両方が出てきます。JFEホールディングスのように、グループの中に商社事業(2025年度の売上収益1兆3,330億円)を持つ例もあります。商社どうしの比較は「商社・卸売の業界地図」で扱います。
原料やエネルギーの値段が動いたとき、それを製品の値段にどう反映するかは、会社ごとに書き方が違います。
- 日本製鉄は、決算短信で、国内では「紐付き価格」における外部から買う原料などのコスト変動の負担を適正にする取組みを続けると書いています。需要家と個別に価格を交渉する例です。
- 大同特殊鋼は、決算説明会で、2026年度の特殊鋼鋼材の減益の要因に、鉄スクラップとエネルギーの「サーチャージギャップ」による影響が20億円程度あると答えています(質疑応答)。原料とエネルギーの値段の変化を販売価格に上乗せする仕組みがあり、その反映がずれると利益に響く例です。
- 東京製鐵は、ホットコイルやH形鋼などの製品の「建値(たてね)」と、鉄スクラップの購入価格を自ら公表しています。販売価格とスクラップ価格の差であるメタルスプレッドで利益が動きます。
- 神戸製鋼所は、鉄鋼の販売価格について、物価上昇分の価格転嫁は進んだものの、原料価格の下落の影響などで前期を下回ったと説明しています。
どの仕組みも1社の説明で、業界の共通の決まりではありません。営業の求人では、担当する相手が大口の需要家か、商社・問屋か、どの値段の決め方にかかわるかを確かめると、仕事の中身が見えてきます。
脱炭素と海外:高炉から電炉への転換で変わる仕事
日本製鉄は、高炉から電炉へのプロセス転換には二酸化炭素(CO2)を大幅に減らす効果があるとしています。高炉の一部を大型の電炉に置き換える計画が、2つの会社で進んでいます。どれもまだ稼働前の計画です。
高炉から電炉への転換は、原料・電力・品質の仕事を変える
| 会社・製鉄所 | 内容 | 生産能力 | 生産開始(予定) | 投資額(政府支援の上限) |
|---|---|---|---|---|
| 日本製鉄 九州製鉄所八幡地区 | 電炉1基を新設 | 約200万トン/年 | 2029年度下期 | 6,302億円(1,799億円) |
| 日本製鉄 瀬戸内製鉄所広畑地区 | 電炉1基を増設 | 約50万トン/年 | 2029年度下期 | 1,400億円(428億円) |
| 日本製鉄 山口製鉄所(周南) | 電炉1基を改造・再稼働 | 約40万トン/年 | 2028年度下期 | 985億円(287億円) |
| 日本製鉄 3基の合計 | 高炉から電炉への転換投資 | 約290万トン/年 | ― | 8,687億円(2,514億円) |
| JFEスチール 倉敷地区 | 革新電気炉を新設し、第2高炉は休止(2028年度) | 約200万トン/年 | 2028年度第1四半期 | 3,294億円(1,045億円) |
JFEは国内を「高炉5基+革新電気炉1基」の体制にするとし、福山第4高炉は2027年度に完全休止の予定。温室効果ガスの削減効果は年約260万トンの見込み(会社の見込み)。日本製鉄・JFEとも、会社の発表によるとGX推進法に基づく政府の支援事業に採択された。
- できる第7条:政府は令和5〜14年度に、移行の施策の財源としてGX経済移行債を発行できる
- 義務第33条:二酸化炭素の排出量が政令で定める量以上の事業者は、毎年度、排出目標などを届け出る
- 割当て第34条:届出をもとに、国が排出枠を無償で割り当てる
- 義務第35・36条:翌年度に排出の実績を報告し、決められた量の排出枠を持つ
改正法は2026年4月1日施行。対象の基準は政令で決まる。
- 原料:鉄鉱石・石炭から、鉄スクラップや水素で作る還元鉄へ一部が移る →原料購買
- 電力:電炉への転換で原料・電力のコストが大きく上がる見込み(日本製鉄)→エネルギー技術
- 品質:大型の電炉で高級な鋼を作る技術を開発する(日本製鉄)→品質管理・研究開発・操業技術
- 設備:新しい電炉の建設と、高炉の休止 →設備技術
日本製鉄は、2025年5月に、高炉から電炉への転換投資を決めたと発表しました。九州製鉄所八幡地区に電炉1基を新設し(生産能力約200万トン/年、2029年度下期に生産開始の予定)、瀬戸内製鉄所広畑地区に1基を増設し(約50万トン/年、同)、山口製鉄所(周南)の1基を改造して再稼働させます(約40万トン/年、2028年度下期の予定)。投資額は合計8,687億円で、政府支援額の上限は2,514億円です。会社の発表によると、GX推進法に基づく政府の支援事業に採択されました。会社は、電炉への転換で原料や電力をはじめ生産コストが大きく上がると見込み、投資を回収できる見通しには、環境に配慮した鋼材(GXスチール)の市場ができることが課題だとしています。
JFEスチールは、倉敷地区の第2高炉を「革新電気炉」に置き換えて休止する計画です(JFEホールディングスの決算説明資料)。投資規模は3,294億円(政府支援の上限1,045億円)、生産能力は約200万トン/年、生産開始は2028年度の第1四半期の予定です。2025年10月下旬に基礎の杭を打つ工事を始めました。会社は温室効果ガスの削減効果を年約260万トンと見込んでいます。JFEスチールは、国内の製鉄所を「高炉5基+革新電気炉1基」の体制にするとしています。
水素を使う技術の開発も進んでいます。日本製鉄は、君津地区の小型の試験炉で、高炉に水素を使う技術(Super COURSE50)により2026年2〜3月にCO2排出量を45%減らしたと短信に書いています。水素で鉄鉱石から還元鉄を作る試験炉も、2026年3月に運転を始めました。
国の制度は、GX推進法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)が土台です。第7条で、政府は令和5年度から令和14年度まで、移行のための施策の財源として公債(GX経済移行債)を発行することが「できる」とされています。2026年4月1日に施行された改正後の法律では、第5章で、二酸化炭素の排出量が政令で定める量以上の事業者に、毎年度、排出の目標などを国(経済産業大臣)に届け出ることを義務づけています。国は、届出が適切と認めれば、それをもとに排出枠を無償で割り当て、事業者は翌年度に排出の実績を報告し、決められた量の排出枠を持たなければなりません。対象となる排出量の基準は政令で決まります。
設備の転換により、製鉄所の原料調達・電力管理・品質管理の仕事も変わります。電炉の主な原料は鉄スクラップで、水素で作る還元鉄の開発も進んでいます。日本製鉄は、電炉への転換で原料や電力のコストが大きく上がると見込み、大型の電炉で高級な鋼を作ることを、開発する技術の1つに挙げています。これらを日本製鉄の職種紹介の名前に当てはめると、原料の組み合わせの変化は原料購買、電力の調達と使い方はエネルギー技術、高級な鋼の開発は品質管理や研究開発の仕事にかかわると考えられます。
海外では、日本製鉄が2025年6月18日に米国のUSスチールの議決権の100%を取得しました。取得の対価は2兆625億円です。取得日から2026年3月末までの約9か月半の売上収益1兆9,331億円が、日本製鉄の連結に入っています。この分は製鉄セグメントの売上収益にも含まれるため、前の期との増減を国内の伸びとして読むことはできません。JFEホールディングスでは、インドのJSW JFE・カリンガ・スチールが期中に新しく連結に加わりました。
輸出も大きな売り先です。普通鋼の受注の38.4%が輸出でした。貿易統計では、令和7年度の鉄鋼の輸出は2,930万トン、3兆8,370億円です。貿易統計の「鉄鋼」は日本鉄鋼連盟の受注統計とは範囲が違うため、2つの数字は比べません。
製鉄所と本社の仕事:求人票で確かめること
鉄鋼の会社の仕事は、製鉄所で設備を動かし守る仕事と、本社や支社で売り、買い、計画する仕事に分かれます。職種の名前は会社ごとに違うため、採用ページの例を会社名つきで見ます。
| 会社 | 採用の区分・職種の名前(採用ページの表記) |
|---|---|
| 日本製鉄 | 新卒の事務系:営業(国内・海外)、営業総括、原料購買、工程管理、コーポレートなど。技術系:操業技術、品質管理、設備技術、エネルギー技術、ITシステム、研究開発など。別に「オペレーター・設備メンテナンス業務採用」がある |
| JFEスチール | 「総合職採用」と「生産オペレーター・設備メンテナンス職採用」。東日本製鉄所の採用では、生産技術職(オペレーター)と保全技術職 |
| 東京製鐵 | 新卒の職種紹介:制御システム、品質管理、技術開発、情報システム、安全環境、資材・購買、人事総務、経理財務など |
日本製鉄の職種紹介では、品質管理は商品の考え方を決めるところから製造ラインの管理までを受け持ち、技術営業として顧客と技術の話し合いもすると説明しています。営業と技術の間に立つ仕事です。
JFEスチール東日本製鉄所の採用ページでは、製鉄所採用の職種を大きく2つに分けています。生産設備の運転・監視をするオペレーター職と、設備の保守・点検や改善をする保全職です。オペレーター職は高炉・転炉・圧延機などの運転・監視が中心で、工程管理・エネルギー管理・環境管理の仕事もあります。オペレーター職は基本的に交替勤務で、職場によっては一般勤務もあります。保全職は機械系と電気系に分かれ、基本的に一般勤務です(一部に交替勤務の職場があります)。
東京製鐵の採用ページでは、製鋼の部門は鉄スクラップを電気炉で溶かして半製品を作り、スクラップの最適な配合などを考えると説明しています。資材・購買は、鉄スクラップや副原料、設備などを調達します。東京製鐵では、スクラップの配合を考える製鋼と、スクラップを調達する資材・購買の両方が、原料にかかわっています。
求人を見るときは、次の点を確かめると、仕事の中身を比べやすくなります。
- どの工程の職場か:製銑・製鋼・圧延・めっきのどこか。高炉一貫か電炉か、製鋼をしない圧延や加工の工場か
- 何を作るか:薄板・厚板・条鋼・鋼管のどれか、普通鋼か特殊鋼か。需要先の産業で、品質の基準と顧客が変わる
- 勤務の形:交替勤務か一般勤務か。交替の組と周期、年間休日の数え方
- 採用の区分と勤務地:総合職か、製鉄所の採用か。転勤の範囲と、配属される事業所
- 営業・購買の相手:大口の需要家か、商社・問屋か。原料は鉄鉱石・石炭か、鉄スクラップか
- 設備の転換:電炉への置き換えなどの計画がある製鉄所か。設備・電力・品質の仕事がどう変わるか
鋼材を使う自動車部品メーカーの品目と取引は、自動車部品の業界地図で確かめられます。



